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思索の森と空の群青

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2018年 07月 29日

そしてほぼ1カ月

 5月の連休後から余裕のない日々がずっと続いている。こんなにもぎりぎりの生活ははじめてかもしれない。ほぼ1カ月前の記録。

 6月22、23、24日は学会でH島県H広島市。大会校はH島大学だが、会場は駅前の市の施設(Kらら。下の写真の左側の大きな建物。写真自体は市役所の最上階にある食堂から。そこが昼食会場だった)。大学は駅から離れていて、バスを使わないといけない。ホテルはやはり駅前に多い。率直に言って、大学だと移動に難がある。今回は徒歩だけで移動できた。あるいはこのために参加者も増えたのかもしれない。

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 22日はラウンドテーブルで指定討論者。ラウンドテーブル後に打ち上げ。

 23日は出番なし。部会や公開シンポジウムに聴衆として参加して勉強する。懇親会にも出る。前日のラウンドテーブルに来てくださっていたH島大学のM先生に、昨日のわたしのコメントがすごくおもしろかったと言っていただく。まったく想定外のコメントでうれしかった。ラウンドテーブルではM先生からご発言をいただく機会を設けられなかった。あるいはつまらない場としてしまったかもしれないと思い、お怒りの言葉を頂戴するかもしれないと覚悟していた。むろん批判も含めての研究上の交流であり、対話である。それもお聞きできるのであればありがたい。日本酒を(たぶんわたしだけ)飲みながらしばらく立ち話を続けた(M先生は準備委員会のお仕事のため、飲んでいなかったと思われる)。大会に来てよかったと思った。

 24日は自由研究発表。スライド投映全盛の時代にあって、あいかわらずの原稿配付・読み上げ方式で発表した。スライドだと手を抜くことができると思っている。原稿にしないと論理展開が甘くなる。原稿+スライドがよいのかもしれない。学会発表とは何か、ということを発表しながら、また、発表を聴きながら思う。わたしの発表に対しては、J智大学のM山先生、T洋大学のY原先生、H島大学のM山先生、元K研のS藤先生からコメントをいただく。司会のH島大学のK下部先生からも「この学会でもH本スタイルが定着してきました」といったコメントをいただき、部会後にもお話を少しさせていただく。「ぜひ投稿してください」とも。「H本スタイル」が発表スタイルを指すのか、発表内容を指すのか。あるいはどちらも指すのかもしれない。
 昼食休憩時にロビーで、発表を聞いてくださっていたH島大学のM山先生に声をかけていただく(別の大会でもわたしの発表を聴きに来てくださり、質問もしてくださった)。わたしが発表するときに人が結構増えたようで(わたしは最前列に座っていたので後ろの様子がわからなかった)、「H本さんの発表をたのしみにしている人が多いようですね」と言われる。M山先生が指導されている院生がわたしと近い問題意識で少数民族の研究をしており、わたしの研究も参照されているらしい。今回の発表原稿も院生に渡したいとのことだった。こういうつながりはとてもうれしい。

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 この間、豪雨災害が起きた。信じられなかった。ローカル線は不通のところもあると聞く。S条を通る路線もまだ不通ではなかったか。昨日から今日にかけては台風だ。何と書いたらよいかわからない。1日も早い復旧を祈る。切に。

@S模原


# by no828 | 2018-07-29 20:11 | 日日
2018年 06月 27日

それは一度、力を得ると、世界を見る目が変わってしまうからだ——万城目学『偉大なる、しゅららぼん』

 万城目学『偉大なる、しゅららぼん』集英社(集英社文庫)、2013年。80(1147)

 単行本は2010年に集英社

それは一度、力を得ると、世界を見る目が変わってしまうからだ——万城目学『偉大なる、しゅららぼん』_c0131823_22095889.jpg

 偉大なる空想の世界。しかし、というつなげ方でよいのか自信がないが、教育は何のためにあるべきか、教育は何に気をつけなければならないかを考えさせられた。
 
 追記;本書が2017年最後の本となった、ことにあとから気づいた。80冊か。研究の文献を含め、読む量が減ってきている。まずい。読み方も変わってきている。これは仕方がないか。「読む」とは何か、かつてよりも考えて読むようになった。

219)「お前はこれからどう生きるつもりだ? 棗家の男としてここで朽ち果てるのか、それとも外の世界に飛び出すのか。もしも、僕とお前がこの町を出たときは、千年だか二千年だか続いてきた、くだらない戦いが終わる。両家の跡継ぎが、いなくなるわけだからな。みんなが呪縛から解放される、お前の妹だって解放される」

491-3)「どうして飲まない。それを飲んだら、お前の親父さんが助かるかもしれない。ここを出なくて済むかもしれないんだぞ」
「別に何も起こらないかもしれない」
「それでも試す価値はある」〔中略〕
どうして、僕がこれまでずっと力を避けてきたかわかるか? それは一度、力を得ると、世界を見る目が変わってしまうからだ〔中略〕僕はこれから、もっと絵がうまくなりたいと思っている。陶芸も、彫刻も、もっとうまくなりたいと思っている。美しいものにもっと触れたい、近づきたいと思っている。でも、これはちがう。この力は自然じゃない。その源は自然の中にあっても、決して人間の世界とは相容れない。勝手に相手の心を操ったり、下らない喧嘩の種になったり、全然美しくない。だから、これまで何があっても、僕はこの力を避けてきた。世界を見る目が変わることが嫌だったからだ。一度失ったら、僕の自然は二度と戻らない」〔中略〕
「つまりお前は立ち向かわないということだ、日出淡十郎」〔中略〕
「今朝、清子さんがこの場所で、校長と戦うと言ったとき、お前は真っ先に賛成した。それなのに、自分が犠牲になるとわかった途端、今度は真っ先に降りると言うのか? 道場でお前は、自分の力で未来を切り拓く、と言った。それは自分の未来だけを守って、残りは全員見捨てて逃げていく、という意味だったのか?〔中略〕別に俺は、お前の家がどうなろうと何の関係もない。勝手にしたらいい〔中略〕でも、ひとつだけ言わせろ。どれだけこの力を憎んだところで、俺は一生、力を捨てることはできない。それでも、俺にはやりたいことがある。だから、そんなふうに、自分だけがきれいでいるみたいに言うな。他の力を持った人間を、汚れたみたいに言うな


@S模原


# by no828 | 2018-06-27 22:17 | 人+本=体
2018年 05月 27日

うまく言えないけど、文化祭の準備、楽しいな、って思ってさ。普段話さない人と話すし、よく知らない人が実は凄かった、って分かったり——似鳥鶏『いわゆる天使の文化祭』

 似鳥鶏『いわゆる天使の文化祭』東京創元社(創元推理文庫)、2011年。79(1146)

 文庫オリジナル

うまく言えないけど、文化祭の準備、楽しいな、って思ってさ。普段話さない人と話すし、よく知らない人が実は凄かった、って分かったり——似鳥鶏『いわゆる天使の文化祭』_c0131823_22310482.jpg

 舞台は高校。時間差攻撃ミステリ。英語タイトルは KILROY WAS HERE

82)委員長の目元には、どことなく自嘲的な色が浮かんでいた。「だけどこういうの、くだらない、って言って参加したがらない人がいるのも仕方ないって思ってたの。考え方は人それぞれだから、押しつけたくなかったし。ただ、衣装は……〔中略〕衣装が足りないって困ってたらさ、横で黙って見てた井口さんがいきなり、『私が作る』って言ってくれたの。あたしあの人と接点ないし、普段、ほとんど喋ったことないから……おとなしい人、ぐらいにしか思ってなかったけどさ
 頷く。僕もそうだ。
あの人、すごい頼れる感じで言ってくれたの。『絶対間に合うから任せて』って。なんか、完璧に自信あります、って感じだった〔中略〕なんか、それ見たらさ、あたしが知らなかっただけで、この人実はけっこう凄い人だったんじゃないか、って思ったんだよね。クラスじゃ目立たないけど、手芸部じゃエースなのかもね
 僕は笑った。「そうかも。一週間で六着を『絶対できる』って言いきれるのって、凄いよね」
「凄いよね」委員長も笑顔になった。「……だからさ、なんかうまく言えないけど、文化祭の準備、楽しいな、って思ってさ。普段話さない人と話すし、よく知らない人が実は凄かった、って分かったり

166)確かに伊神さんがいれば心強い。事件好きのあの人なら、喜んで捜査してくれるかもしれない。だが、それでどうなるのだろう。いくら伊神さんでも、五日で犯人を当て、しかも動かぬ証拠を突きつけることができるとは思えない。それだけではない。もし捜査が失敗して、事故が起こったらどうなるか。僕一人が責任を負うならいいが、解けなかった伊神さんにも責任の一端を負わせることになってしまう。僕が勝手に頼って呼びつけた伊神さんに、だ。

171)「一つ、断っておきますが」先生は言った。「中止するというのは、あくまで私の判断です。君はたぶん、そこまでになるとは思っていなかったでしょうが、教師というのは、君が思っている以上にトラブルを怖がるものだと思ってください
 先生は僕の目を見たまま言った。どうやら、気を遣ってくれているらしい。ありがたさに、自然と頭が下がった。「ありがとうございます。……大丈夫です。そのつもりで来ましたから」
 僕の言葉を聞いた先生は、なぜかすっくと立ち上がった。それから僕の方に手を置いた。
君が教えてくれなければ事故になっていたかもしれない。そうすれば、我が校の文化祭は来年からの開催も怪しくなっていたでしょう。君は我が校の文化祭を護ってくれたんです。……そう考えてください
 肩に置かれた手に力がこもった。いつも無表情で、熱意どころか感情すらあるのかないのか分からない、という評判の長谷川先生は、意外なほど力強い手をしていた。


@S模原


# by no828 | 2018-05-27 22:35 | 人+本=体