2008年 12月 17日
雨 80(130) 内田樹『街場の教育論』ミシマ社、2008年。 (読了日:2008年12月15日) 矢野智司の『贈与と交換の教育学』に通じる議論だと思う。 「〔……〕正直に言うと、教育というのは『差し出したものとは別のかたちのものが、別の時間に、別のところでもどってくる』システムなのです。喩えて言えば、キーボードを押すと、ディスプレイに文字が出る代わりに、三日後に友だちから絵葉書が届いたとか、三年後に唐茄子を二個もらったとか、そういうどこをどう迂回したのかよくわからないような『やりとり』が果たされるのが教育というものの本義なのです。 ビジネスマンはそのようなシステムが存在すること自体が信じられませんし、許せません。〔……〕けれども、申し訳ないけれど、教育というのは『そういうもの』なのです」(p. 27)。 「でも、教育をしたいという情熱と、教育を受けたいという欲望は、無人島であっても、おそらくは変わらない。〔……〕 それは教育の本質が『こことは違う場所、こことは違う時間の流れ、ここにいるのとは違う人たち』との回路を穿つことにあるからです。『外部』との通路を開くことだからです。〔……〕 『今ここにあるもの』とは違うものに繋がること。それが教育というもののいちばん重要な機能なのです。 〔……〕自分たちが知っているような人間たち、自分たちが呼吸してきた社会の空気、自分たちの上に大気圧のようにのしかかっていた価値観、そういうものにはもううんざりしているので、できることならそれとは『別の人間、別の社会、別の価値観』に触れたい、というのがつらい目に遭ってきた子どもたちのいちばん自然な願いではないでしょうか。 教育の中心はこの『教えるものと学ぶもの』の出会いにあります。 〔……〕 親に教育を全面的に委ねたら、おそらく『勝てる』子どもをつくろうとするでしょう。メディアに委ねても文科省に委ねても財界に委ねても(委ねようにも、むこうは受け取りを拒否するでしょうが)、やはり『ここ』の価値観にジャストフィットした子どもをつくり上げようとするでしょう。 教育の場だけが、教師と子どもが顔と顔を向き合わせている場面だけが、『ここ』の支配を免れた『逃れの街』たりうると私は思います」(pp. 40-42、強調は原文、ただし原文では傍点)。 「〔……〕私はそういうふうに子どもたちの触手が『外へ』と拡がる契機となるものを、総じて『教育的』と呼ぶことにしています」(p. 245)。 何だかんだ言っても、教育はやっぱり「そういうもの」なんだと思った。 わたしはここのところ自分の問題意識にも疑いを向けてきたが、勇気出して研究しなよ、って言われたような気分になった。 @自室
by no828
| 2008-12-17 23:47
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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