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思索の森と空の群青

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2009年 06月 03日

「勇気はないけど、耳はある」――あさのあつこ『The MANZAI』

 昨日たまたま古本屋で見つけた本。そして今日の研究の合間に読み終わった本。

27(160) あさのあつこ『The MANZAI 3』ジャイブ(ピュアフル文庫)、2006年。
 (読了日:2009年6月3日)

 わたしは那須正幹(なす・まさもと)の「ズッコケ三人組」シリーズが小学校時代に好きでよく読んでいた。主人公たちも小学生という設定であったからかもしれない。たぶん、実家には当時買った本がまだ残っていると思う。

 それいけ!ズッコケ三人組ホームページ

 わたしはズッコケ三人組で描かれるような友だち関係にとても憧れていた。わたしが「ハカセ」だとすると、「ハチベエ」は誰か、「モーちゃん」は誰か、などとよく考えていた。が、どの割り当てもしっくりこなかった。

 『バッテリー』も、この『The MANZAI』も、あさのの描く中学生に、彼/彼女らのあいだの「友だち」という関係性にわたしは惹かれる。

 小学校から中学校にかけての「友だち」が、こうであればよかったなあ、という思いがたぶんたくさんある。

 『The MANZAI』第3巻は、中学3年の夏のお話。

 以下の場面は、主人公瀬田と漫才のコンビを組もうと熱烈に希望する秋本の実家のお好み焼き屋に友だちが集まって夏祭りに関する打ち合わせをしているところ。

 「『議長、再び質問があります』
 『瀬田くん、どうぞ』
 『あの、まさかとは思うんですが、森口さんと篠原さんの、夏祭り中止を中止させたい理由って……新調した浴衣を着るため……なんてことはないですよね』
 『まあ、それもあります』
 ぼくは、思わずクシャミをしてしまった。
 『森口、そんな個人的理由なのかよ』
 『個人的な理由が大切なんです。個人の思いを大切にしてこその政治ではないですか、瀬田くん』
 『はあ、しかし、それは……どう思う?高原?』
 『ええんとちがうか』
 高原は、箸で炒めたキャベツとニンジンをつまみ、口に入れた。
 『あっ、美味いな。おれは、ええと思うで。浴衣が着たいから祭りをしようっての、素朴な感情やないか。そういうの大切にせな、政治はなりたたへん』
 『高原くん、えらい。将来、総理大臣になって欲しいわ』」(pp. 147-148、強調は引用者)。

 高原くんは森口さんの浴衣姿を見たいだけだと思いまーす。
 (高原は森口のことが好きなんです。)

 でも、政治については大切なことを言っていると思う。ひとつの考え方として、そしてわたしが現在支持する考え方として、「私」が集まって「公」になる、というのがある。「私」と別に「公」があるのではない。こっちが「私」であっちが「公」というのではない。「私」があってはじめて「公」がある。それと通じる。


 以下は、上述打ち合わせ後の瀬田と瀬田が片思いするメグとの二人きりの会話。メグの本名は萩本恵菜(はぎもと・めぐな)。

 「『おやじさんと、何かあったのか?』
 メグが大きく目を見開いた。
 『病院で、萩本を見たんだ。何か辛そうだった。今日も元気なかったし……』
 テレビドラマなら、ここで腕を引き寄せ固く抱きしめるところなのだろうが、ぼくにその勇気はない。〔略〕
 『萩本、何があったんだよ?おれに、話せることか?』
 勇気はないけど、耳はある。想いもある。聞くことぐらいはできる。ぼくはメグの力になりたかった」(p. 186、〔〕内は引用者)。

 いいね、こういうの。


@研究室

by no828 | 2009-06-03 18:41 | 人+本=体


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