2009年 10月 13日
お昼の授業終わり。そのあと某先生とお話。ただいまお昼休憩中。 —―――― 溜まった読了本を毎日1ないし2冊ずつでもレヴューしていくことにしたい。そうしないと溜まる一方だ。 46(179)あさのあつこ『ガールズ・ブルー』文春文庫、文藝春秋、2006年。 6月末に読み終わっていた本。タイトルだけ見て、「はて、どんな話であったか」と思ったが、読んだときに印を付けておいた箇所をその前後と合わせて読みなおし、「ああ、そうそう」と思い出した。 「『駅で見た心温まる若者』とかいう題だった。 『駅の構内で、ゴミを拾う若者たちを見た。みんな、誰に言われるでもなく黙々と清掃していた』で始まり、『若者たちは、ある高校の制服を着ていた。荒れている、非行が多いと、とかく悪いうわさの多い高校である。その生徒が、黙ってゴミを拾っている。感動した。わたしたちは外見だけで人を判断しがちだが、どこにでも心のまっすぐな若者はいるものなのだと、思わせられた』と続き、中略して『受験と偏差値、点数の高低に汲々としている進学校の生徒より、もしかしたら豊かな心を持っているのかもしれない。そう、これからは、学力よりも豊かな心こそが必要なのだろう』と結んであった。なかなかの名文である。でも大笑いである。投書したおばさんにも、載せた新聞にも笑える。あたしたちは、黙々と清掃なんかしなかった。缶を拾っただけだ。あたしたちが稲野原の制服を着ていなかったら、この投書おばさんは、こんなにも感動しなかっただろう。〔……〕万引きも売春も、いかにもやってそうな女子高校生のゴミ拾いは、感動的な心温まる話になるらしい。みんな、そんな話が好きなのだ。〔……〕 だから、油断するな。美咲はそう言ったのだ。睦月じゃないけど、みんなが期待する美しい物語に嵌めこまれたら、逃げ出せない。 睦月は、亡き監督に勝利を誓う選手の役から、あたしたちは、勉強はできなくとも豊かな心を失わない若者の役から、進学校の生徒諸君は、受験と点数競争に明け暮れ、疲れ果てたエリートの役から逃げ出せなくなる。捕まりたくない。演じたくない。あたしは、主役を張りたいのだ。演出も脚本も主演も、全部あたしがやる。あたしに役を与えて、演じろと命じるものを、かたっぱしから蹴っ飛ばしたい。他人の物語の中で生きていくことだけは、したくない。 だから、油断しない」(65-67頁。強調は引用者、以下同様)。 ある意味でこのおばさんも、外見で人を判断しているのだ。「彼/彼女(ら)はAである、だから当然Bであるはずだ、しかしそうはなっていない、だからすばらしい(あるいはダメだ)」、そういう論じ方には気を付けたほうがいい。 「『うち、今やばいんだ。工場、いつまでやっていけるかわからないって、親、言うんだもの。進学、無理かなぁ』 『就職も無理よ』 美咲が、燕の飛行を追うように視線を空に向けた。 『今、高校生の就職なんてむちゃくちゃ厳しいよ。特に、うちみたいな学校、求人なんて来ないし。今まで高校生の職場だったとこに、大学生とか専門生とか、ばんばん入りこんでんだって。今年の卒業生なんて、仕事なくてプーの人、いっぱいだよ』 そこまで言って、さすがに言いすぎたと思ったらしい、 『でもスウちゃん、うちのトップだし、なんとかなるんじゃない』 と、美咲らしからぬ穏やかな口調になった。 『けどさ、あたし、夢とかないし。特になりたいものとかないし、就職とか言われても困るよね。あたし、ずっと稲野原の生徒でいたいなあ』 スウちゃんに向かって、あたしは、うなずいた。今がいい。今が楽しい。ずっとこのままでいたい。時が、還流すればいいと思う。流れ去っていくのではなく、ぐるぐるとただ、巡り流れてくれればいい。あたしたちは、いつまでも今のあたしたちだ。 ときどき、本気でそう思う。同時に、突き抜けたい、遠くに、高く、この街を突き抜けて、今までと全然別の自分を見つけたい。そうも思う。真反対にある二つのものを、同時に手に入れる魔法ってないだろうか」(71-72頁)。 若者ってそういうものだと、自分の10代を思い出す。 @研究室
by no828
| 2009-10-13 16:13
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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