2010年 02月 10日
わたしは部屋にいるときはラジオを聴くことが多い。最近J-WAVEを聴いていると、Hanahの「愛されたくて愛したいだけ」がよく流れてくる。 出所:J-WAVEのHanah紹介ページ 念のため確認しておくと、名前の表記はHanahであって、Hannahではない。もちろんHannahという名前もある。政治哲学者のHannah Arendt(ハンナ・アレント)がそうですね。わたしとしては、だからHannahのほうが馴染みがある。はじめてHanahを見た/読んだとき、“あれ、nがひとつ抜けているぞ”と思ったものであります。 いずれにしても、左から読んでも右から読んでも、HanahでありHannahではある。なお、HanahはありHannahもあるけれど、しかしHannnahはないと思われます(一体何て読むんだ)。 ちなみに、Hanah氏はJ-WAVE月曜2時(深夜ね)からの番組「MUSIC WONDERLAND」も担当されていたり、われらがカメ氏の結婚式2次会で歌ってくれたりもしたのでした(カメ夫人のご友人らしい)。 さて、「愛されたくて愛したいだけ」。わたしはサビの歌詞がちょっと気になる。 愛されたくて愛したいだけ なのに、なのに、うまく生きれない 何が気になるのかと言えば、「なのに」という逆接の接続の仕方。むしろ、 愛されたくて愛したいだけ だから、だから、うまく生きれない ではないのか、ということなのです。「だから」という順接でつながるはずではないのか、と。歌を聴くと、いつもそう思う。気になるわけですね。だからここに書いてしまう。 もちろん、当該歌詞の前後のコンテクストを十分に勘案すれば、「なのに」でよいのかもしれない。しかし、わたしは勘案できるほど前後の歌詞を知らない(おい)。だから、とりあえず気になった箇所だけを拾い上げてしまう。 「愛されたくて愛したい」というのは、つまり、「愛されたい、かつ、愛したい」ということですが、いずれも欲望を表している。「〜されたい」「〜したい」は欲望の言語表現です。そして、欲望とは常に過剰(あるいはたまに過少)であるから、実現された事態を常に過少なものとして、あるいは(めったいにないと思いますが)過剰なものとして捉えてしまう。「〜されたい」は「『〜される』ということをしたい」というふうに換言可能なので、以下「〜したい」とだけ書きますが、「〜したい」という欲望はぴったり成就されることは、ない。常に、満たされず、あるいはたまーに満たされすぎる。もちろん、瞬間的にぴったり成就することはありうる。しかし、それは瞬間的なもので、次の瞬間にはすでに“あれ、何か足りないぞ”と、“これがオッケーなら、これもオッケーなはずなのに、それは現在実現されていない、ちょっと不満だ”という事態が訪れる。欲望は常にぴったりは満たされないものなのです。 ゆえに、わたしは 愛されたくて愛したいだけ だから、だから、うまく生きれない だと考えるわけです。「愛されたい」「愛したい」と欲望している以上、うまく生きられないのは当然ではないか、と考えるわけですね。 それゆえに、ここで少々飛躍しますが、“うまく生きたい”とすれば、つまり、“「うまく生きれない」って嫌だなあ、うまく生きたいなあ”があるのであれば、対偶を取って、“愛されたいとも愛したいとも思わない”という覚悟のごときものが必要です。そうすれば、完全に、とは言えないけれど、多少は“うまく生きられる”ようになる、はず。欲望が消えれば、不満も消えるからね。 そもそも愛なるものが何か、わたしにはわからないということを度々ここにも書いているわけですが、どうも感触からすると、愛なるものは「愛したい」「愛されたい」という欲望の形態には接続しないもののような気がする。うまく言えないけれど、“気付いたら愛しちゃってた”とか、“あれ、もしかしてわたしって結構愛されちゃってるかも”とか、“結果として、そうなっていた(これまで気付かなかったけれど)”という、そういう類の事態を指すことばなのではないか。逆に言えば、「愛したい」とか「愛されたい」と欲望しているうちは、愛することも愛されることもない、のかもしれない。 念のために書いておくと、これはHanahさんの歌詞への(通俗的な意味での)批判ではない。Hanahさんの歌詞がなければ考えなかったことであるから、敬意はあっても批判はない。院生なる者は面倒くさいことを考えるのだな、ぐらいでよろしくお願いします。 @研究室
by no828
| 2010-02-10 18:07
| 思索
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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