2011年 08月 30日
76(398)瀬尾まいこ『温室デイズ』角川書店(角川文庫)、2009年。 ※ 単行本は2006年に同書店より刊行。 版元 みちる、優子、荒れまくりの小学校高学年から中学校卒業までのサバイバル。 わたしの通った中学校もかなり荒れたところで、小学生のわたしは“行きたくない”と思っていた。“不良がたくさんいる”と思っていた。実際、いた。「裏校則」と呼ばれる、先輩絶対主義の不文律もあった(たとえば、廊下で先輩と擦れ違うときは必ず会釈しなければいけない、とか。先輩が連続して来るときはずっと頭を下げて歩かなければならない。で、それをしないとあとで先輩に呼び出されて殴られたりする)。しかし、わたしが1年生のあいだからすでに、“「裏校則」を撤廃しよう”という動きが3年生のなかから出ており(中心にいたのは生徒会役員の先輩方)、わたしが2年生に上がってからは「裏校則」は消えた、とは言えないのかもしれないが、少なくともだいぶ緩やかになったようには感じられた。 教員からは観察・看取されない、あるいは教員が観察・看取しようとしない生徒の側の論理。親からは観察・看取されにくい子どもの側の論理。 ちなみに、瀬尾まいこは『図書館の神様』(→ ●)などに続いて4冊目、のようだ(ブログ内検索結果)。瀬尾は、典型的な家族、というものを描かない。しかし、非典型的な家族が幸せではない、ということでもない。典型の不幸、非典型の幸、そういうものがある。 □ 「前川さんって、かわいいし、いじめられるようなタイプじゃないじゃん。知的そうだから、俺と一緒でさ、カテゴライズされることに拒否反応を起こしてるのかなって、思ったんだけど」 お母さんは、学びの部屋には私と同じような気持ちの子がきっといる、って言ってたけど、こういうやつのことなんだろうか。私はぞっとした。 「本当に知的なら、教室にいるわ。同じ制服を着て、同じ教科書使うだけで自由が奪われたと思うのは、知的能力が低い証拠よ」 「じゃあ、どうして? どうして前川さんは学校に行かないんだよ」 「私は……」 そう言いかけて、私は戸惑った。 いったいどうして私は、学校に行かないのだろう。 □(118) □ 「そうだって。そんな必死にならなくても、学校が全てじゃないじゃんって、みちるを見てると思う。学校生活なんて気楽にやっちゃって、他の何かに夢中になったら、もう少し力抜けて楽になるのに」 「他の何か……」 「そう、中学校第一じゃなくてさ」 私だって、学校生活が何より大事だと思っているわけじゃない。でも、私たちは一日のほとんどを中学校で過ごす。いやでも中学校生活が、自分の時間の大半を占める。他にすること。残念ながら、中学校生活を送ること以外に、これといって思いつかない。 □(172) □ 「弁当。優子ん家のおばちゃんって、昔からほんと、まめ」 〔略〕 「まあね。確かに弁当は凝ってるし、豪華だよね」 「何それ。ひとごとみたい。もっとおばちゃんに感謝しなよ」 「でも、私、こういうミートボール嫌いなんだよ」 優子がミートボールをフォークに刺して掲げてみせた。 「そっか。優子ケチャップ苦手だもんね」 「ね。みちるでも知っているようなこと、あの人は知らない」 〔略〕 「お母さんって、本当観察能力ないんだよね。子どものころに好きだって言っただけで、いまだにしょっちゅうパイナップル食べさせられるしさ」 □(173-4) □ まったく吉川は当てにならないスクールサポーターだ。強くもなければ、観察力もない。スクールサポーターとして、機能したためしがない。私はやれやれとため息をついた。 「中森さんって、すごいなあ」 「何が?」 「まだ希望を持ってるってさ、感心する」 「希望?」 「この期に及んで、まだ学校をなんとかしたいって思ってるのがすごい」 「そんなこと、思ってないよ」 「今の状態に麻痺してしまわずに、ひどいって感じてるってことは、まだなんとかなるって思ってるからだよ」 「そうかなあ」 「そうそう。それに、中森さん、まだ何も投げ出してないじゃん。教室にも行くし、壊されたものは戻そうとする。本当にすげえって、思う。俺だったら、速攻投げ出してほいほい逃げちゃうけどな」 □(179-80) □ 「どうするって、何もかも捨てて、的を絞るんだ。いろんなことを同時にうまくやろうとするからだめなんだよな。だいたい中学校には、いろんなものが多すぎる。教育委員会、生徒、校長、不良、保護者、地域、自分自身、本当、しがらみだらけだぜ。だから、何一つうまくいかない。半年ここにいてさ、俺〔吉川〕、自分が教師には向いてないってわかった。だから、的は簡単に絞れる」 □(191) @研究室
by no828
| 2011-08-30 18:15
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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