2011年 09月 02日
79(401)伊坂幸太郎『ラッシュライフ』新潮社(新潮文庫)、2005年。 ※ 単行本は2002年に同社より刊行。 版元(→ ●) 伊坂幸太郎3冊目。やっぱり一気に読ませるね。 (今年はこれで79冊目だが、年間100冊で行くと、なかなかよいペースだ。3.11のあとの1ヶ月くらいは研究が手につかなくて、小説を中心に本ばかり読んでいた気がする。たぶん、そのときのが貯金ならぬ貯本になっている。しかし、“本を読む”という行為は、終わってみると“あれ、俺はいままで一体何をしていたのだ”というふうに、充実感ではなく虚脱感のようなものに襲われることが多い。) □ 「不景気、不景気と騒いでいるがな、これだけ長い間不景気なんだ、それがこの国の標準の状態なんだろう。子供がテストで一度満点を取ったからと言って、その後五十点程度しか取っていなければ、その子の実力は五十点だろ。違うか? この経済状態だってずっと続いてればそれが普通なんだ。昔のまぐれ当りを待ちつづけている馬鹿ばかりの国に先はない。だいたい、失業率にしたところで、全人口分の仕事がこの世の中に用意されていると誰が決めたんだ? 少なくとも私は決めた覚えはないぞ。誰もが仕事にありつけると無根拠に思い込んでいるだけだろ? 人口が多くて、全員分の仕事はない。簡単なことだ」 □(9) 全員が仕事をできるわけではない、というところから社会システムを構築すべきではないか、とわたしも思う。5脚しかない椅子を目がけて10人がダッシュする、1脚に2人で座る?椅子を作る?たしかにそれもありだと思うが、“基本的に5人は座れない”を認めるところから見えてくることもあるはずだ。 と言って、わたしはベーシック・インカムの素直な支持者であるわけではない。それを導入するにしても、社会システム全体はもちろん、システム細部にまで慎重な目を配ってからでないと、ベーシック・インカムの理念や意図が換骨奪胎されるおそれがある。 □ 「優しさ、ですか?」 「優しいって字はさ、人偏に『憂い』って書くだろう。あれは『人の憂いが分かる』って意味なんだよ、きっと。それが優しいってことなんだ。ようするに」 「ようするに?」 「想像力なんだよ」 □(79) 優しさとは、人の憂いへの想像力。「憂い」かぁ……。 「憂い」ねぇ……。 □ 「世の中にはルートばかりが溢れている、とね。そう言ったよ。人生という道には、標識と地図ばかりがあるのだ、と。道をはずれるための道まである。森に入っても標識は立っている。自分を見詰め直すために旅を出るのであれば、そのための本だってある。浮浪者になるためのルートだって用意されている」 □(217) □ 「違うよ。人生は道じゃないと、そう思うことにしただけだ」 「道じゃない?」 「海だよ」黒澤は肩をすくめる。「ルートも標識もない、茫洋たる大海原だ。俺たちはそこで、でかい魚にでもつかまって、大きな流れに身を任せている」 □(221) □ 私憤でけっこう、私怨でけっこうだ。 公的な理由で行われる戦争や内紛に比べればよほど健全ではないか、とさえ感じた。蟻や蜂は自分たちの巣や集団の維持のためには闘うが、自分自身の恨みのために相手を倒すことはない。個人的な理由による復讐は、よほど人間らしいではないか、と豊田は思った。 人間がそんなに偉いのか、ヒューマニズムという言葉が一番嫌いだ、と老犬は言いたげだった。 □(260) カントの転用? 犀川創平@森博嗣も、たしかこういうことを言っていた。 □ 「画家が祈るか?」 「たぶん絵というのは、紙に殴りつけた祈りだよ」 □(265) 「物書きが祈るか?」 「たぶん本というのは、紙に殴りつけた祈りだよ」 □ 「考えないでも分かる。芸術家に必要なのはパトロンだよ。それは昔から変わらない。芸術家に欠けているものは生活力だからな。才能と努力以外で言えば、画家に必要なのは理解ある助言者などではなくて、ただの金だ」 □(267) 「考えないでも分かる。研究者に必要なのはパトロンだよ」 □ 「俺はさっき泥棒のプロフェッショナルだと言ったよな」 「確かに」 「でもな、人生については誰もがアマチュアなんだよ。そうだろ?」 佐々岡はその言葉に目を見開いた。 「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるわけがない。まあ、時に自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」 「アマチュアか」佐々岡がぼんやりと呟く。 □(277) @研究室
by no828
| 2011-09-02 17:00
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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