2011年 10月 13日
祝 102(424)村上春樹『1973年のピンボール』講談社(講談社文庫)、1983年。 ※ 初出は『群像』1980年3月号、単行本は同社より1980年6月に刊行。 版元 → ◎ 『風の歌を聴け』→『1973年のピンボール』→『羊をめぐる冒険 上・下』? はて、『風』と『羊』は読んだっけ?「鼠」の存在はすでに知っていたから、少なくともいずれかは読んでいるはずだが。 □ つかまえてはみたものの、どうしたものか僕にはわからなかった。後足を針金にはさんだまま、鼠は四日めの朝に死んでいた。彼の姿は僕にひとつの教訓を残してくれた。 物事には必ず入口と出口がなくてはならない。そういうことだ。 □(14-5) 〈こちら〉と〈あちら〉。 □ トロツキーは闇にまぎれてトナカイの橇を盗み、流刑地を脱走した。凍てつく白銀の荒野を四頭のトナカイはひた走った。彼らの吐く息は白いかたまりとなり、ひづめは処女雪を散らせた。二日後に停車場にたどりついた時、トナカイたちは疲労のために倒れ、そして二度とは起き上がらなかった。トロツキーは死んだトナカイたちを抱き上げ、涙ながらに胸に誓った。私は必ずやこの国に正義と理想と、そして革命をもたらしてやる、と。赤の広場には今でもこの四頭のトナカイの銅像が立っている。一頭は東を向き、一頭は北を向き、一頭は西を向き、一頭は南を向いている。スターリンさえもこのトナカイたちを破壊することはできなかった。モスクワを訪れる人は土曜日の朝早くに赤の広場を見物するといい。赤い頰をした中学生たちが白い息を吐きながらトナカイたちにモップをかけているさわやかな光景を眺めることができるはずだ。 □(20) トナカイたちは今、何を見ているのか。ソ連からロシアへ、トナカイたちは何を見たのか。中学生たちは今も土曜の朝、トナカイたちを磨いているのであろうか。 (ちなみに、わたしはトロツキーの『永続革命論』の理解がまだ不十分だ。文字どおり受け取れば、“革命とは革命の永続(連続)でしかありえない”ということになると思うのだが、どうもそうではなく、だからといってそれは二段階革命論でもないらしいのだが、わたしはどうもそのようにしか理解できていない。) □ 「あなたは二十歳のころ何をしてたの?」 「女の子に夢中だったよ。」一九六九年、我らが年。 「彼女とはどうなったの?」 「別れたね。」 「幸せだった?」 「遠くから見れば、」と僕は海老を呑み込みながら言った。「大抵のものは綺麗に見える。」 僕たちが料理を終えるころ、店は少しずつ客で埋まり始め、フォークやナイフや椅子のきしむ音が賑やかになっていった。僕はコーヒーを、彼女はコーヒーとレモンのスフレを注文した。 「今はどうなの? 恋人はいるの?」彼女が訊ねた。 僕はしばらく考えてから双子を除外することにした。「いや、」と僕は言った。 「寂しくないの?」 「慣れたさ。訓練でね」 「どんな訓練?」 僕は煙草に火を点けて、煙を彼女の五十センチばかり頭上に向けて吹いた。「僕は不思議な星の下に生まれたんだ。つまりね、欲しいと思ったものは何でも必ず手に入れてきた。でも、何かを手に入れるたびに別の何かを踏みつけてきた。わかるかい?」 「少しね。」 「誰も信じないけどこれは本当なんだ。三年ばかり前にそれに気づいた。そしてこう思った。もう何も欲しがるまいってね。」 彼女は首を振った。「それで、一生そんな風にやってくつもり?」 「おそらくね。誰にも迷惑をかけずに済む。」 「本当にそう思うんなら、」と彼女は言った。「靴箱の中で生きればいいわ。」 素敵な意見だった。 □(105-6) “村上春樹にとっての学生運動”というテーマで誰か論文を書いていないかな。 @研究室
by no828
| 2011-10-13 14:09
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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