2011年 11月 16日
120(442)森博嗣『レタス・フライ Lettuce Fry』講談社(講談社文庫)、2009年。 ※ 本書は、2006年に講談社ノベルスとして刊行。初出は『メフィスト』ほか。 版元 → ● 短編集。森博嗣の短篇は、しかしよくわからない。「よくわからない」は、物語性が掴めない、という意味である。そこに断片的に埋め込まれた“ものの見方・考え方”はわかるのだが。 □ 「ああ、綺麗ですね。夜の方が立派に見える」 「だいたいのものは、そうだよ」 □(「ラジオの似合う夜」55) だいたいのものは、秋から冬の方が綺麗に見える。 □ 「貴方はいつも急ごうとなさるの。じっくりと腰を据えれば良いことを、早くなんとかしようとされるでしょう?」 「そうかな」 「お仕事だから、しかたがありませんけれど、頭はそんなに速く回らないわ。適度な速さというものがあります」 「なんか、叱られているようだね」 「ごめんなさい、そんなつもりじゃないの。時間をかければ、絶対に解決ができると思います。それが言いたかっただけ」 「わかった。ありがとう」 □(69) 研究における適度な速さ、というものを思う。学友O坪が自らを「大器晩成」と形容していたが、それはわたしにこそふさわしい。 □ 僕が僕という一人の人間だと認識したのはいつだっただろうか。そして、そのすぐあとにはもう、僕の周囲に檻という囲いがあって、ここからは出られない、ここから見えるものだけが僕の視界で、すべての悲しみも、すべての喜びも、この内側だけで展開するものだということを重ねて学んできたのだ。 最初は、それが普通のことだと考えた。むしろ、檻の存在は僕を安心させる。この中にいるかぎり安全だ。恐ろしいものは、たいていは檻の外にあって、そして大きい。だから、檻の中へは、僕のすぐそばまでは、入ってこられない。それだから、居心地が良いとさえ僕は感じていた。 もう少し大きくなった頃には、この檻は、どうして作られたものだろうか、と考えるようになった。誰が僕のために与えてくれたのだろうか。〔略〕やはり、大人しく内側にいるこの状況が、このうえなく安全で、さらに、ここにいるからこそ僕が僕なのではないか、という漠然とした予感があったからだ。つまり、もし檻を破って外に出ていったら、もうそれは僕という人格ではなくなってしまうのではないか、と思えた。〔略〕そう、そもそも、中に閉じ込められているという発想が間違っているのではないか。ここが僕という存在そのものなのだ。すなわち、僕はここ以外にない。内も外もない。したがって、出ていくとか、打ち破るとか、そういった概念さえありえないのだと。 けれども、またもう少し大きなった頃には、事情がだいぶ変わってきた。 □(99-100) このような感覚をわたしにもたらしたのは、意識であり、今でもそうした感覚はある。次に、身体。身体から離脱したいと思った。身体を伴わない意識を獲得したいと思った。そうした地平に突き抜けたいと思った。しかし、それらはいずれも無理であった。最近は、この身体とも折り合いをつけられるようになった、というか、うまく操縦できるようになった、気がする、のも意識のなせる業なのである。 @研究室
by no828
| 2011-11-16 15:42
| 人+本=体
|
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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