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思索の森と空の群青

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2012年 04月 27日

男というのは、悲しんでいるところを他人には見られたくないものなのだ——アボット『図書館長の休暇』

男というのは、悲しんでいるところを他人には見られたくないものなのだ——アボット『図書館長の休暇』_c0131823_1448578.jpg66(526)ジェフ・アボット『図書館長の休暇』佐藤耕士訳、早川書房(ミステリアス・プレス文庫)、1999年。

版元 → なぜか情報なし
原著は1996年に刊行、原題は Distant Blood


 最後まで行ってしまいましょう。『図書館の死体』(→ )、『図書館の美女』(→ )、『図書館の親子』(→ )と続くこの作品シリーズには、実は「家族」が通奏低音として流れています。本書の原題も、そういう意味合いが含まれています。

 引用は以下の1箇所です。しかも、強いて、です。

「ぼくのことなら気づかいは無用です。だいじょうぶですから。みんなのほうこそ、きっとショックだったでしょう」
「なに、どうせこの家族はもっとひどいことを経験してきたんだ。それに死んでいく男が、自分が死ぬことやほかの人間が死ぬことを考えてひとり暗がりに座っているのは、あまり健康なことじゃない。さあ、座って一緒にブランデーを飲〔や〕らないか?」
「それじゃ、いただきます」コーヒーテーブルの向かいにある座り心地のいい読書椅子に、ぼくは座った。マットは横にあるホーム・バーのカウンターでさっそく用意すると、戻ってきてぼくに、なみなみと注がれたブランデーグラスを手渡した。そのときマットは、かすかに顔をそむけた。目もとが赤く腫れあがっている。ぼくはそれを見て目をそらしたし、マットを抱擁する気もなかった。男というのは、悲しんでいるところを他人には見られたくないものなのだ。
(145)

 わからなくもない。しかし、父方の祖父が死んで(わたしが高校1年のとき)、斎場に行ったとき、父方の叔父が奥さん(わたしからすれば義理の叔母)の手をぎゅっと握っていたのを見て、わたしの父は絶対そういうことはしないだろうなあということもあって、こういう悲しみ方もあるなあ、と思った記憶があります。


@研究室

by no828 | 2012-04-27 15:05 | 人+本=体


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