2012年 05月 30日
85(545)内田樹『街場の読書論』太田出版、2012年。 版元 → ● 内田先生の新刊であります。もっとも感銘を受けた部分の引用からはじめます。 書き手が「自分と同じことを考えている読者」を想定し、彼らの「そうそう」という友好的な頷きを思い浮かべながら書いているとしたら、彼が書いているのは「思想」ではなく、「イデオロギー」である。 意識することを心がけたいと思います。ちなみに、小川百合『英国オックスフォードで学ぶということ』(→ ●)にあった、なぜ本にするのか、というくだりを思い出しました。 「私はこのように思う」という判断を下す瞬間に、「どうして、私はこのように思ったのか? この言明が真であるという根拠を私はどこに見出したのか?」という反省がむくむくと頭をもたげ、ただちに「というような自分の思考そのものに対する問いが有効であるということを予断してよろしいのか?」という「反省の適法性についての反省」がむくむくと頭をもたげ……(以下無限)。 〔略〕宗教や哲学や文学などについて論じる場合は〔略〕論文の主題がしばしば「論文を書きつつある主体自身の思考の手続きや文体そのものが歴史的条件や個人的なバイアスによって規定されており、論文を書きつつある主体がみずからのこの被投性を遡及的に問う」という面倒な作業を伴う〔略〕。(281) この点を認識している人とそうでない人と、そのあいだの隔たりはなかなかに深いと思います。わたしも十分に認識できているとは思いませんが、少なくともそれに気付いてはいます。認識した、ではなく、気付いた、というレベルだからかもしれませんが、気付いていない人、認識していない人とのコミュニケーションの難しさはかなりあるとの実感があります。十分に認識していれば、そんなこともないかもしれません。逆に、認識している、気付いている人同士では、議論が通じやすいということがあります。そこに甘んじることなく、その隔たりを埋めるほうに知的資源を投じていくことが必要なのかもしれませんが、わたしの「位置」からではそれが難しいとも感じています。 教師もそうである。教師にほんとうに必要な資質は、子どもたちのうちに、まわりの誰も(本人さえも)認識できない「埋もれた才能」を感知して、それが開花するまでの長い時間を忍耐強く待ち続けることのできる能力だと私は思っている。(183-4) 「存在するもの」と「存在しないはずのもの」とのあいだ。かなり惹かれるところです。 でも、いったん「極端」まで行ってから「戻ってきた」人の方が、はじめから「そこ」にいる人よりも、自分がしていることの意味をよく理解しているというのは経験的にはたしかなことです。(241) マルクス主義へ人を向かわせる最大の動機は「貧しい人たち、飢えている人たち、収奪されている人たち、社会的不正に耐えている人たち」に対する私たち自身の「疚しさ」です。 必ずしもこのコンテクストに沿わずにわたしの頭に浮かんだのは、わたしを含め「開発」について考えている人たちでした。そういう人たちにとって、その「疚しさ」とは「戻ってくる」ための「経由」地点、折り返し地点なのか。むしろ、それはかつてどこかにあったものではなく、常に意識しているものではないのか。「マルクス主義」へと直結しない「疚しさ」のありかたとは? ということを考えました。 @研究室
by no828
| 2012-05-30 14:16
| 人+本=体
|
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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