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思索の森と空の群青

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2012年 07月 28日

なぜなら、他人の人生を背負ってるからだ。覚悟を持てよ——伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

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115(575)伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』新潮社(新潮文庫)、2010年。

版元 → 

単行本は2007年に同社より刊行。


 久しぶりの伊坂作品です。わたしの非学術書の選択は「ぶ」と「お」を冠する古本屋の105円の棚に大きく左右されますが、運よく入手することができました。本書は、首相暗殺の嫌疑を掛けられた主人公の逃亡劇です。事件を操作する“何か大きいもの”が示唆されています。「ビッグブラザー」がいないのだとしたら、“それ”は何と名指せばよいのでしょうか? 名指すことができないのでしょうか?

 本書は、かつて読んだ作品との関連があると思われます。若き首相金田は、以前にも出てきたように記憶しています。

 白ヤギさん、黒ヤギさん、青ヤギさん。

 個人的には、情熱を露にする人よりも、静かに熱い人が好きです。
「金田君は、まだ若いから、理想論を口にしすぎる」とたしなめられた際、「私は理想を叶えるために、政治家になったんですよ」と静かに言い切った。(18)

「びっくりするくらい空が青いと、この地続きのどこかで、戦争が起きてるとか、人が死んでるとか、いじめられてる人がいるとか、そういうことが信じられないですね」(386)

偉い奴らを動かすのは利権らしいですよ」〔略〕
「よく知ってるな、その通りだよ。教科書に載せるべきだ」
(545)

 であれば利権の存在自体を操作すればよいのでは、と思いましたが、難しそうです。

「いいか、人を殺すのが正しいとは思わない。ただな、自分の身を守る時だとか、たとえば、家族を守る時だとか、そういった時に、相手を殺してしまう可能性がないとは言えないだろう? 本音を言うとな、俺はそういうのはアリだと思ってんだ」
「アリなんですか」樋口晴子は笑いを堪え、言った。
「アリだな。だからというわけでもないが、こいつが人を殺す可能性がゼロだとは思わないんだ。何かそうせざるを得ない状況が来ないとも限らない。だろ? ただ、痴漢ってのはどう理屈をこねても、許されないだろうが。痴漢せざるをえない状況ってのが、俺には思いつかないからな。まさか、子供を守るために、痴漢をしました、なんてことはねえだろ。ま、俺の言わんとすることはそういうことだ」
(289-90)

「よし、おまえたち、賭けるか? 俺の息子が本当に犯人かどうか賭けねえか?」と自分を取り囲むリポーターを一人ずつ指差した。「名乗らない、正義の味方のおまえたち、本当に雅春が犯人だと信じているのなら、賭けてみろ。金じゃねえぞ、何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ。おまえたちは今、それだけのことをやっているんだ。俺たちの人生を、勢いだけで潰す気だ。いいか、これがおまえたちの仕事だということは認める。仕事というのはそういうものだ。ただな、自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれねえんだったら、覚悟はいるんだよ。バスの運転手も、ビルの設計士も、料理人もな、みんな最善の注意を払ってやってんだよ。なぜなら、他人の人生を背負ってるからだ。覚悟を持てよ(584)

 わたしは、運転手と設計士と料理人の例に、教師、も付け加えたいです。


@研究室

by no828 | 2012-07-28 15:08 | 人+本=体


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