2013年 07月 31日
岡崎武志『蔵書の苦しみ』光文社(光文社新書)、2013年。63(718) 版元 → ● 新刊で購入。著者はライター、書評家です。 大学の研究室が今年の3月で使用できなくなり、年度切替の時期に書物を研究室からアパートへ運び込みました。アパートに置いていた趣味本(主に小説)はもはや実家へ持っていかざるをえませんでした。1,200冊ほどを入れるために800冊ほどを出した、ということになります。それでも置いておきたい(注1)趣味本もあるわけで、300冊くらいは残したと思います。結果、現在の部屋には大体1,500冊くらいある計算になります。が、日々増えています。 注1 この「置いておきたい」という感情は一体何なのでしょう。 そういうわけでわたしなりに「蔵書の苦しみ」を感じていたわけですが、この本を読み、“「蔵書の苦しみ」を名乗るのにはまだ早いっ!”と言われたように思いました。著者は2万冊以上の水準「蔵書の苦しみ」を感じてきました。桁が違います。安心しました(← え、そういうことでいいの?)。 本棚に置いておくべき本の最適数はどのくらいなのか、などなど本書で提出されている疑問のいくつかは、蔵書数が増加するにつれてわたしも抱くようになりました。買ったものは全部読む、から、気になったものはとりあえず買っておく、へといつの間にか転じたことにより、読んでいない本も本棚へ並ぶことになります。これは“むむ、読まなくては”という意識を強くするための装置にもなるわけですが、あまり気持ちがよいものでもありません。また、冊数が増えれば、本棚には本を前後2列に収納せざるをえなくなり、“自分は何を読んだのか、何を持っているのか”がわからなくなってきます。一時期までは——この時期とはおそらく“買ったものは全部読む”時代と重なっています——全部記憶していたのですが、なかなかそれもできなくなっていきます。 本は1列に壁1面に2面に3面に、というのが理想です。それができればすべての本の背表紙を見ることができます。一目瞭然。そんな環境に(できるだけ遠くない未来に)身を置きたいです。本書に紹介されていた根岸哲也さんの「本の栖〔すみか〕」を非常に羨ましく思いました(本書123ページの写真をぜひ参照)。 すべて、あそこの古本屋、ここの古本屋と渡り歩きながら、一冊一冊買い集めたものばかり。いつも眺め、取り出し、ときになでさすってきた本たち。それが、売られていく日は、飼っていた子牛を手放す酪農家の気分だった。 問題なのは、机のまわりに積み上げられた本と、格納庫たる本棚との循環がうまくいかないことだ。目の前の仕事が終わって、用済みになった本はもとの本棚に収めれば、またあらたに必要な本を、身のまわりに待機させることができる。ところが、そのときに収めるべき本棚はすでに満杯で、本棚の前にも床から積み上げられた本の壁ができている。用は済んでも、帰るべきところがないのである。(59) 「〔略〕一日に三冊もの本を読む人間を、世間では読書家というらしいが、本当のところをいえば、三度、四度と読みかえすことができる本を、一冊でも多くもっているひとこそ、言葉の正しい意味での読書家である」 研究者は、そんなに簡単に本を売れないと思います。「蔵書の苦しみ」を抱えながら、それでも生きていかなければならない(大袈裟)。それゆえ、その苦しみを具体的かつ技術的にどう緩和できるかが問われることになります。研究者はいかに蔵書の苦しみを緩和したか——ぜひシリーズで読みたいです。 @研究室
by no828
| 2013-07-31 14:26
| 人+本=体
|
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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