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思索の森と空の群青

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2014年 02月 18日

あのな、大人の役割は、生意気なガキの前に立ち塞がることなんだよ——伊坂幸太郎『オー!ファーザー』

あのな、大人の役割は、生意気なガキの前に立ち塞がることなんだよ——伊坂幸太郎『オー!ファーザー』_c0131823_19181118.jpg伊坂幸太郎『オー!ファーザー』新潮社(新潮文庫)、2013年。116(771)

版元 → 
単行本は2010年に同社


 ギャンブル好きな父、女好きな父、博学卓識な父、スポーツ万能な父。要するに父が4人。ある1点において突出した人物は——困ることもありますが——おもしろいです。しかし、その互いに異なった点の集合のほうがおもしろいと思いました。

 教育環境としても、です。

 だから大学を含め学校にも多様な人材を、という意見もわかります。わかりますが、その多様性の中心には共有されるべき点があるはずです。父が息子を大切に思う、というのが本書におけるその中心点でしょう。


「で、勲さんは例のマイケル・ジョーダンの言葉を、生徒の前で繰り返すわけだ」
俺は何度も何度も失敗した。打ちのめされた。それが、俺の成功した理由だ
(109)

「鷹さん、ゲームうまいんだね」鱒二が感心する。
「昔取った杵柄だよな。十代の俺がいったい、いくらゲーセンに投資したと思ってんだよ。簡単には負けねえよ」
「大人気ない」
あのな、大人の役割は、生意気なガキの前に立ち塞がることなんだよ。煩わしいくらいに、進路を邪魔することなんだよ
(165)

 教科書を開き、ノートに書き写したキーワードを眺め、図表を書いてみる。こうして書いてみると、日本の歴史は簡単なフローチャートみたいだな、と由起夫は苦笑する。戦で死んでいった人間たちの、たとえば、矢で刺された苦しみや、残された子供の絶望、窮地に追い込まれた政治家の緊張はまるで浮き上がってこない。あるのは、戦の結果と制定された法律や制度ばかりだ。
「だから」と悟が以前言っていたのを思い出す。「だから、今の政治家もどちらかにこだわるんだ。戦をはじめるか、もしくは、法律を作るか。歴史に残るのはそのどちらかだと知ってるんだ。地味な人助けはよっぽどのことでないと、歴史に残らない」
(291)

「頭の良さっていったい何だろう」
〔略〕
「人間っていうのは、抽象的な問題が苦手なんだ。抽象的な質問から逃げたくなる。そこで逃げずに、自分に分かるように問題を受け入れて、大雑把にでも解読しようとするのは大事なことだ」
〔略〕
「それが頭の良さってこと?」
「ペーパーテストができるよりは、良いだろ。抽象的な問いかけに対して、自分の知っている数字で、答えを導き出すんだ。そして、あとは気配りとユーモアが重要だ」
(294-5)

 勉強のできない子のいいわけの一つに「学校で習わなかった」というのがあるが、教育の場で最も求められていることの一つは「世の残酷さ」、「現実の理不尽さ」に向き合う勇気を与えることだと思う。学校はフェンスと守衛に守られた世界に過ぎず、まだ真の敵は現れていないし、挫折や失敗の傷は浅く済んでいる。これから現実界に足を踏み出す者は、予測不能の残酷さや理不尽に直面しなければならない。あらかじめ準備できることは少ないが、たとえば伊坂幸太郎を読むことには大いに意味がある。(島田雅彦「解説」557)


@研究室

by no828 | 2014-02-18 19:32 | 人+本=体


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