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思索の森と空の群青

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2014年 03月 19日

科学哲学って、あれは、そういう通じる言葉を作る役じゃないんでしょうか——筒井康隆『脳ミソを哲学する』

科学哲学って、あれは、そういう通じる言葉を作る役じゃないんでしょうか——筒井康隆『脳ミソを哲学する』_c0131823_18385125.png筒井康隆『脳ミソを哲学する』講談社、1995年。126(781)

版元 → 

 筒井康隆と科学(に関わる仕事をする)者との対談集です。筒井の科学に関する背景的知識の多さに驚きます。

 本書内でA・E・ヴァン・ヴォクトの『宇宙船ビーグル号の冒険』(版元 → )に何度か言及されています。同書に登場する「総合科学者」の役割の重要性が指摘されています。細分化した科学の下位分野間の“通訳”のような役割を果たせる人のことです。というわけで、『宇宙船ビーグル号の冒険』をいま読んでいます。

 また、107ページにあった筒井の発言(6番目の引用)には強く共感しました。“この先、行き止まり”の標識を掲げることにも意義があると思います。成功したことだけを綴る論文は、何というか、本末転倒のようにわたしは感じます。

 ちなみに、対談相手は以下の人たちです。

 科学哲学  村上陽一郎
 解剖学   養老孟司
 生命誌   中村桂子
 動物行動学 日高敏隆
 数学    森毅
 気象学   根本順吉
 生物工学  軽部征夫
 理論物理学 佐藤文隆
 イカ学   奥谷喬司
 評論    立花隆


筒井 対象をあまり愛しすぎるのはアマチュアだと村上さんは以前おっしゃっていましたが、もちろんよい意味でのアマチュアということでしょうが、そういうアマチュアっぽさもないとなんというか、科学の先端をやっている人たちがみんなサラリーマン的では、わたしもなにか情ないような気がしますね。(18)

村上 サラリーマン的な研究者というのは小さなレンガは積みますが、そこに積んだレンガの上に美しい装飾をかけるのは、やっぱり面白がったり、こんなのはどうだという独創的な発想のある人なんです。地道さというのは大事ですが、地道さだけで、この世界が動いているとは思えませんね。〔略〕地道な人は地道な人で、そのかたがたにも協力していただきましょう、だけども、そこにあえて軽薄という言葉を使えば軽薄、あるいは面白いからこんなことやってみようよというのが付け加わっていかないと、やっぱり豊かにはならない。(25)

筒井 さっきから考えているんですけど、科学哲学って、あれは、そういう通じる言葉を作る役じゃないんでしょうか。
村上 ある意味ではそうです。分化した、それぞれの科学の基礎に、どうやったら、共通の文法と共通の翻訳ができるような土台が見つかるか、その土台を探すものではあるんです。
(28)

中村 生きものは三十億年くらいは海にいて、五億年くらい前に陸に上がった。実際に、わたしたちは生まれてくるまではほとんどの間、水の中にいるわけです。羊水って、ほぼ海の水と同じ成分なんですね。そこから、だんだん陸へ出ていくといったような歴史を身体で表現している。(80)

日高 ぼくは昆虫の研究から入ったわけですが、なぜかというと、昆虫を見ていてこいつらなにをしているんだろうっていうのが、いちばん気になってしかたがないんですね。なぜだろうって。(96)

筒井 この実験を延々とやってきたけれど、仮説の立て方が間違っていて全部失敗に終わったという場合でも、少なくともこれは間違いであるということは記録に残る。それはつまり、役に立っているわけですよね。(107)

軽部 なぜかと言いますと、三十五億年にわたって偶然性によって進化してきた生物を、偶然にではなく、わたしたちの意思でわたしたちの役に立つように改良することができるようになったからです。
 生物の進化や、人間はこれからどのように進化していくべきかというようなことを、自分たちで決めることができるようになってきたのです。幸か不幸かわかりませんが、これがバイオテクノロジーの本質じゃないかと思っています。
(185)

立花 でも、フロイトが精神分析論で説明づけたような精神的病いが、実は遺伝子レベルのある酵素欠陥が原因だったというようなことが、いま、どんどんわかってきつつあります。そうすると、あの理論というのは一体なんだったんだということになるわけです。
筒井 心理学は実証ということがまったくできない学問で、自然哲学に近かったり、統計学に近かったりするわけです。でも僕は、なにかのかたちで統合的に科学になり得ると思うのです。
筒井 心理学が科学になり得るのは、それが脳の実際の構造機能と結びついたときでしょうね。
(272)

軽部 たとえば、高齢化社会と言われていますが、言葉でコミュニケーションをとれなくなったお年寄りと言葉を介さず、脳と脳でコミュニケーションできるようになれば、より満足のいく介護もできるでしょう。(205)

 ALS。

@研究室

by no828 | 2014-03-19 18:53 | 人+本=体


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