2015年 02月 04日
川上未映子『発光地帯』中央公論新社(中公文庫)、2014年。54(877) 単行本は2011年に同新社 版元 「日記的エッセイ」との説明が裏表紙にあります。BとOとKとFの付く古書店の108円ではないコーナーにあった川上未映子本をごそっと買った記憶があります。本書もたしかそのときの1冊。 完全に、ではないけれど、わかります。「罪悪感」それ自体の構成のされ方、出来上がり方に関心があります。外部にあった「善悪」に関する規範の内面化とその参照の不可避。という状況をもたらしたのは何か。教育? 心理学的な説明はもちろんなされているのでしょう。 わたしといえば、そんなふうにして、おいしいものを追いかけた記憶もないし、きっとこれからだってないように思う。食べたいのに我慢してるとかそういうことじゃないけれど、なんというかその理由はわりにはっきりとしていて、おいしいものを自分が食べる、ということに、罪悪感があるのだった。お腹が満たされれば食べ物の目的は達せられるし、自分がおいしいものを食べるよりもさきに、おいしいものを食べるべき人がいるんじゃないかとそう思うと、とたんに味がなくなってしまうのだった。誰にも言われたわけじゃないのに、食べること。拡大して受けとれば楽しむことに原罪(!)のような感覚がこれはたしかにあるのだから、楽しかったあとは悲しい気持ちにかならずなって、落ち込み、そんなだから生きていて、楽しそうですねと言われることがあるわけじゃないけれど楽しいことはほとんどないのもしかたなく、文章を書くのは大好きだけれどまったく楽しいことではないから、なんとかつづけていけるのだと思うのだった。(「風は光ったりしない」105-6) とてもよくわかります。上の最後の文章とも関連します。 大好きだけれど楽しくないことにこれほど夢中になれるのは僥倖というよりほかないけれど仕事がうまく運べばそのほかのことがなにもうまくゆかぬでもそれでも仕方がないなと思えるくらいにやはり文章を書くことが大好きなのだ、あなたはなにが楽しくなくても好きですか? しかしこの質問にはあまり意味がないのだったね、だって好きと楽しいはもともと関係がないのだからさも関係があるのが当然であるかのように前提してなにかそこにあり気な装いはいい加減にしたまえよ、〔略〕問題はいつだって楽しさだ、大好きはそのあとをいつも期待してしまう苦しさを連れてくるけれど、楽しいはその場で完了するみずからの力を持ってるね(「楽しいですか十二月」142) 「世界を介護する」! 小説は、人によって違うと思うけれど、描写することに再現や親切さや丁寧さが求められるからどこか世界を介護するような気持ちに近くて、詩作は、瞬間、瞬間にかちっと光った言葉をつかまえて、なんの遠慮も誰への気遣いもなく白いところに焼きつけると、有無をいわさずにひっつけたり、時には折ったり、ねじ込んだりして、あるいは切手を貼るような角度で言葉を扱う作業なのだけれども、そうしながらも言葉はそれ自体で意味を持ってしまうから、その意味であまりに素晴らしく、そんな言葉とのあれこれは、どちらかというと戦いに近い、と思っていたけれど。(「詩ったら」121) @研究室
by no828
| 2015-02-04 18:53
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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