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思索の森と空の群青

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2015年 03月 18日

悲しいという言葉と、悲しい気持ちが、むすびついたはじめてのときのことを——川上未映子『魔法飛行』

悲しいという言葉と、悲しい気持ちが、むすびついたはじめてのときのことを——川上未映子『魔法飛行』_c0131823_18531163.jpg川上未映子『魔法飛行』中央公論新社、2012年。74(897)


 版元  ただし文庫版

 あと半分くらい? → 


 日記というかエッセイというか。レシピもあります。今度やってみよう。


 悲しいという言葉と、悲しい気持ちが、むすびついたはじめてのときのことを思いだそうとさっきから旋回しているのだけれど、この春じゃどうも見つからないみたい。(9)

しかし、書き物の仕事のように、思念と行動がもろに仕事に反映されてしまう、いわゆるオンとオフと呼ばれる境界のないこの文筆の仕事につくまえから、——この時間を売ってわたしはお金を稼いでいるのだとしか思えないような仕事をしていたときから、休みの日はじっと動かないでいるのがすきだった。(18)

問題はつねに「生」と「死」で、そこに「老い」の余地はなかった。しかしわたしにはいま「老い」がとても見えてしまう。関節に卵子に髪に歯に。胃に爪に脂肪に骨に睡眠に。昨日よりも今日、そしておそらくは今日よりも明日、死んでいっている自分の体の一部のことが、これが本当によくわかる。(77-8)

 ひとりぶんだと卵は一個。ふたりぶんなら卵二個です。それをがつがつ泡立てて、そこに粉チーズ(パルメザンね。うえによくふりかける白いやつ)をちょっと強気に適当に投入してさらに念入りにかきまぜる。ここで麺を茹ではじめる。それからベーコン。ベーコンをかりかりに焼くにはフライパンに油をひかず、ただベーコンが丸裸のままじりじりにちにち焦げてゆくのを見守るだけでよいのであって、油いらず。かりかりになったのを見届けて、そこに茹で汁をお玉に半分くらい入れて、そこにいい感じに茹であがったら麺を入れて、卵&チーズを入れてあわせる。卵のかたさはお好みで。火にかけすぎるとダマになってしまうから、さっとからめるくらいでいいみたい。(138)

 体にどこも悪いところはないけれど、祖母はいつ、ふと思いだすみたいにして亡くなったとしても不思議じゃない年齢で、祖母に育てられ祖母を大好きなわたしは、物心ついてから、この祖母もいつか死んでしまうときがくるのだと。そればかりをいつも考え、覚悟してきて、数えきれないほどの疑似をかさねてしてきた。この数年のあいだ、もしかしたら明後日、三年後、半年後、この週末、わからないけど、何よりも恐れていた「そのとき」が「このとき」になるのだ、恐れていたことはほんとうになってしまうのだと、そんなことを感じている。ただただ、感じている。(154)


@研究室

by no828 | 2015-03-18 18:58 | 人+本=体


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