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思索の森と空の群青

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2016年 03月 28日

だって三年後に生きてるかどうかも、全然わかんないしぃ——内澤旬子『捨てる女』

だって三年後に生きてるかどうかも、全然わかんないしぃ——内澤旬子『捨てる女』_c0131823_1929190.jpg内澤旬子『捨てる女』本の雑誌社、2013年。54(976)


 版元

 2015年に残してきた本


 イラストレーターの著者はモノを貯め込む傾向にあったようなのですが、乳癌に罹って“モノがある”という状況が心底嫌に感じるようになってしまい、題名のとおりになりました。死を明確に捉えたことで、感覚が研ぎ澄まされたというハイデガー的側面もあるのかもしれません。

 わたしはいまのところ、すぐそこに本があることの安心、というものを感じています。


 モノはなけりゃないほどいいし、隠せるもんなら全部隠してつるっぺたにしたい。したいったらしたいんじゃあっ!〔略〕
 まだまだ使えそうなものもなんもかんも、捨てまくることにした。三年以内に着手できないもの使わないものは、いらん。だって三年後に生きてるかどうかも、全然わかんないしぃ。仕事道具だけでなく日常品もロックオン。ううん、それだけじゃない。近頃は食いモノや生活習慣あたりまでも射程内に入れてみた。
 きっかけは、ブックレビュー番組に出演するんで読まされた、村上春樹の『1Q84』。あの本でなにが一番印象に残ったかって、登場人物が自宅で飲みかけのビールを流しに捨てる描写。すごく当たり前に捨てていることに、衝撃を受けた
 これまで自宅で缶ビールを開けようもんなら、どんなことがあっても飲み干してたから。ちょうど気持ち良くなったところで止めることができない。だって残すのもったいなくて。あとで豚肉でも煮ろと言われそうだが、自分にそんなマメなことができるわけもなく、冷蔵庫のゴミを増やすだけ。だったらと全部飲み干して、お腹が冷えすぎ、気持ち悪くなる。
 と、まあ、そういうもったいなくて我慢するストレスをもね、軽減しようとしているんである。
(21-3)

 あたしは常日頃、政治家が嘘を言わずに天下国家を動かせるわけがなかろうと思っていた。それだけでなく企業だって、自分の友人知り合い、仕事関係者親戚、すべて含めて、みんな本音と建前くらいあるだろう、世の中そんなもんだろう、と思ってた。
 しかしそうではなかったらしい。嘘をつかれて、こっそり出し抜かれて、めちゃくちゃにされて、ムカッ腹を立てまくってしまった。政治家にも東電にも、そしてスーパーの物品を買い占めた近所のだれかにも。
 つまりは、無意識領域ではすべての他者が、自分に対して誠実であるにちがいないと、思ってたってことになる。
「人間なんてそんなもんだろ」とまるで動じない、文字通りの極悪人の友人をみると、まだまだ甘かったのだなあたしは、と思う。そこまでは絶望していなかったということになるのか。
 政治や東電の責任追及はさておき、せめてこういう非常時に、身の回りの出来事では、がっかりしたイライラしないようにならねばならん。だれが何をしようが泰然とありたい。
 というわけで、まずは少しでも電力に依存しないように、コンセントのついているモノたちと手を切ることにした。東電に払う電気代を減らしたい一心である。それにコンセントや電気コードが部屋のあちこちをのたくっている事がここんところイヤでたまらなかったのだ
(139-40)

 本とは、モノとは、必要なときにだけその人のもとに滞在して、気持ちが離れればまた別の欲しい人のところに流れてゆくものらしい。この歳になってようやくわかったことだが、古書店さんはそれに日々立ち会っていらっしゃるのだ。(203-4)


@研究室

by no828 | 2016-03-28 19:36 | 人+本=体


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