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思索の森と空の群青

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2016年 12月 14日

そういう風に、迷う新人は見込みはある。悩まないのが問題なんです。悩む人が成長する——梶原しげる『会話のきっかけ』

 梶原しげる『会話のきっかけ』新潮社(新潮新書)、2014年。15(1012)


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 会話が軽快に進まない、そもそもはじまらない、という事態を問題だとは思っていないのですが、一応、勉強用です。とはいえ、本書の軸足は、どううまく話すか、ということよりも、言葉を介した自己理解の深め方、他者理解の進め方に置かれています。重要な事柄です。

 筆者の個人的な経験に加え、筆者が学んだ人や読んだ本などの内容も紹介されています。

「部下には弁当を買いに行かせろ」という話は、部下を試し、評価し、指導するためのテストですが、こういう考え方は個人的にはあまり好きではありません。他者の評価につながるような行動は結果的に生まれるものだと思っているところがあって、他者を評価するための行為をしようとは思いません。上司と部下という関係性において上司の位置に立って部下を引き上げていかなければならないとするなら、たしかにそういう“試す”方法も活用できるのかもしれません。しかし、わたしのような仕事には——少なくとも研究者という点で——上司も部下もないし、誰かを指導しようという気持ちも強くは——まったく、ではないと思う——持っていません。学生に対しても、そうです。が、講義では学生にレポートや試験を課しているわけで、実際は他者を——「部下」と「学生」とは異なるものの——試しているのかもしれません。部下や学生という立場からするとこうした試される局面はあったほうがよいのでしょうか。“いま試されているな”と気づく人もいるでしょう。

 人はなぜ人を試すのでしょうか。自分のため、自分の属する集団のためでしょうか。

 恩師、國分康孝先生の言葉にこんなものがある。
「自己紹介が自己開示であれば良好な人間関係が築かれやすい。自己開示とは、自分の強みも弱みも構えること無く相手に伝えることだ」(34)

 タレントの小島慶子さんがこう言っていたのを思い出す。
私は、この人嫌いだなあ、この人苦手だなあ、と思った時、その気持ちを放置しないようにしているんです。どうして嫌いなんだろう、どうして苦手なんだろうって、何度も自問自答するんです。そうすると、嫌いだとか、苦手なのは、実はその人が自分と似た嫌な所があって、自分を見ているような気がして苦手とか、自分よりこういう所が優れているからやきもちをやいている、とか、私の好きな物が嫌いだってどこかで読んだり聞いたりしたからだ、とか。そういう事が分かると、嫌いだとか苦手だとかいうことが不思議とどうでもよくなることがあるんです」(58)

〔梶田叡一によると〕
コトに触れモノに触れて自問し、それに対し自答するという習慣がなければ、考えるという事がないままの『刺激反応型人間』になってしまう」〔略〕「万一このように自らの感情を精査しないまま、紋切り型の反応をしてしまいそうになったら、こういう呪文を唱えよう。待てよ待て。今のこの感覚を言葉にすると……」(59-60)

〔小宮謙一によると〕
部下には弁当を買いに行かせろ」〔略〕一五〇〇円を部下に渡して「お前の分と俺の分、適当に買ってきてくれ」とだけ言う。「どこで、何を、どのように」など一切の情報無しに言われた部下にとって、これは厄介な課題だ。
「指示が無い注文」を前に、途方に暮れる新人達の姿が浮かぶ。一〇歳も二〇歳も年上の上司には、どんな弁当が喜ばれるのだろうか?
そういう風に、迷う新人は見込みはある。悩まないのが問題なんです。悩む人が成長する」(70-1)

丸谷〔才一〕さんは挨拶をする時あらかじめ原稿を書き、それを読む、という事を原則とされていた〔略〕。〔/〕弔辞や媒酌人挨拶など特別な場合を除けば、「挨拶にいちいち原稿を読むのは、いかがなものか」と言われがちだが、丸谷さんの見解は違う。
 原稿も書かずに、出たとこ勝負の挨拶でしどろもどろになり、話があっちへ飛び、こっちへ戻りを繰返し、気がついたら一〇分以上長々と退屈な話を続ける「困った人」が少なくないとお嘆きなのだ。(116)

〔丸谷才一によると〕
「〜とにかく人を喜ばせようという気持で準備するんです。だから、主賓(その会の主役)についてちょっとからかう。〜悪口(軽口の類い)を一入れたら、十か二十ぐらい褒める〜とにかく褒めなければならない」〔略〕〔/〕「とても優秀」など、大ざっぱで抽象的な言葉を羅列しても相手の心に響かない。やはりここでも挨拶を向ける相手先の「取材・観察・研究と、それを整理して作成した挨拶の中身」が必要だ。(124)

我々が好ましいなあ、と思うのは、一瞬、『?』と驚きながらも、気を取り直し、一生懸命真面目に答えを出そうとする人です」(202)

@研究室


by no828 | 2016-12-14 17:02 | 人+本=体


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