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思索の森と空の群青

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2017年 12月 26日

差別の意図を持って発せられた言葉は、それがいかなる言葉であろうと発言者は責められるべきです——有川浩『別冊 図書館戦争Ⅰ』

 有川浩『別冊 図書館戦争Ⅰ』アスキー・メディアワークス、2008年。9(1076)


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 引用2つ。最初の引用は、4「こらえる声」から。「雄大」とその母親の実情は、本書登場人物たちと同様、書内で明かされるまで想像できなかった。2つ目は5「シアワセになりましょう」から。本が狩られる世界という本書の世界設定との関わりのなかで「差別」の本質について述べられている。

211-2)室内には穏和な表情をした初老の婦人が先に座っている。彼女が立ち上がって深く礼をした。
「児童相談所の澤山さんです。」
 柴崎の紹介で、母親は突然その場に泣き崩れた。
 ごめんなさい仕方がなかったんです——
 雄大は私の言うことをちっとも聞かないし、
 夫はちっとも相談に乗ってくれないし、
 苛々して自分では止められなくて、
 家にいたら雄大に手を上げてしまって止められなくなるから、
 少しでも外に出ようと思って図書館に、
 でも家に帰ったら図書館で騒ぎを起こした分まで叱ってしまって、
謝らなくていいんですよ。私たちはあなたと雄大くんを助けにきたんですから
 澤山の言葉で母親はますます泣き崩れた。

245-8)木島 フィクションに関して良化法は違反語は指定できても、文脈による違反指定はできないんです。良化法を直に批判するもの以外はね。僕の作品は多くの人に差別的な印象を与えるにも関〔ママ〕わらず、良化法の決めた枠からは一語たりとも飛び出していない。これほど差別的表現を駆使した悪意ある図書を現行の良化法は狩ることができないんです。〔略〕良化法の定めた言葉の中で、僕はここまで不愉快かつ差別的なものを書いている。だけど、良化法には僕の作品を取り締まる権限はない。自己満足かもしれませんが、それを世間にひけらかしたくて作家をやっていますね。〔略〕言葉だけ狩って蓋をして差別がなくなると思ってる奴、あるいは過去に確かに存在した差別がそれで帳消しになると思ってる奴にも思い知らせたいんですよ。〔略〕日本人の非常に悪い癖として「臭い物に蓋」でそれを「ないこと」「なかったこと」にしてしまう。大前提として、差別はあるんです。それは言葉尻だけをごまかして何とかなることではありません。
——つまり差別とは言葉で一律に解決できる問題ではなく、一つ一つを吟味し検討しなければならない、ということでしょうか?
木島 〔略〕僕がこういう形で作家になろうと思ったきっかけがあるんです。ある町に住んでいたとき、住宅街で道路の真ん中を自転車でふらふら走っていたおじいさんがいました。そこへ乗用車が来て、当然のことながらクラクションを鳴らしました。〔略〕三度目のクラクションでおじいさんは初めて振り向き、そして何と言ったと思います?
——さあ……「うるさい」でしょうか。
木島 もっと衝撃的でしたよ。「何度も何度もうるさいんじゃ、ボケ!」聞こえていておじいさんはずっと無視していました。そのうえ運転手に向かってこう怒鳴ったんです。「ブーブーブーブーやかましいんじゃ、この○○人、○○人、○○人!」
(※○○人の部分は編集部判断で伏せ字とさせていただきました)
——それは……(インタビュア、絶句)
木島 明らかに攻撃的な、相手を貶めるための口調でその○○人という単語は連呼されました。〔略〕そのおじいさんは○○人という言葉を明らかに差別用語として使っていました。逆に言えば○○人と言えば相手を差別し、貶めることができると思っていたのです。ですがこの言葉を差別用語として、違反語として、良化委員会の違反語リストに登録できますか?
——それは無理です。不可能です。その国に関する報道自体ができなくなりますし、国交問題になりかねません。
木島 差別の本質はそこにありますし、言葉の本質もそこにあります。無知による誤用は正せばいい。正当な意図があっての使用なら、その説明とともに検討されるべきです。ですが、差別の意図を持って発せられた言葉は、それがいかなる言葉であろうと発言者は責められるべきです。そういう意味ではそのおじいさんが使った○○人のように、いかなる言葉も差別語になる可能性を孕んでいる。

@S模原


by no828 | 2017-12-26 22:10 | 人+本=体


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