2008年 10月 22日
晴れ 某ラジオ番組が本特集をしていたので、人生ではじめてラジオ局にメッセージを送る。 69(119) 泉正人『「仕組み」整理術』ダイヤモンド社、2008年。 (読了日:2008年10月19日) 方法論。 金曜日に研究室内の机・本棚等を動かすことになっている。この本から学んだところは活かそう。 70(120) 桂望実『平等ゲーム』幻冬舎、2008年。 (読了日:10月19日) 小説なのだが、「平等」の勉強用に読む。「平等」とは何なのか。 島民1,600人全員が平等の島・鷹の島をめぐるお話。 「僕は前のめりになった。『仕事が平等に振り分けられるというのは、とても大事なことなんです。世界をご覧ください。貧富の差がないはずの社会主義の国が、どうなってますか?特権階級という不思議な階層が必ず存在します。真面目に働いている大多数の人たちが生んだ資産を、一部の特権者が掠め取っていくんです。結局競争原理の資本主義の国となんら変わりません。この資本主義というのもやっかいです。自由で素晴らしい社会のように思いがちですが、実際は無用な競争が繰り返され、格差が生まれます。鷹の島では、こうした特権階級や格差を生まない仕組みを作りました。4年毎に仕事が変わっていけば、既得権益的なものは発生しなくなりますし、平等です。〔……〕』」(p. 13)。 「口を開きかけた僕は、言葉に詰まった。 平等な生活を望んでいない?そんな人がいるのか?まさか。 僕の説明の仕方が悪いのだろうか。 かおりは平等の意味をわかっていないのかもしれない。 かおりは栗をフォークですくうようにして口に入れた。『島へ移ったのって、どんな人が多いの?』 『色々だよ。元アナウンサーとか、元ツアコンもいたし、ワーキングプアだと自分で言う人もいたし』 『成功した人はいた?仕事も恋愛も、充実した毎日を送ってますって人じゃないでしょ?』 僕は首を捻った。 フォークをかおりが振り回す。『やっぱりね。幸せだったら、鷹の島に興味をもったりしないもんね。パンフレットを取り寄せないだろうし、結局、負けた人たちってことだよね。競争に負けた人たちが、平等って言葉に惹かれるんでしょ?私も一時、その仲間入りしてたってことか。やだなぁ、それ。ちょっとショックー』笑い声を上げ、すぐに真顔になった。『こっち上手くいかなかった人たちにとっては、確かにパラダイスなのかもね。最後の砦にさせてもらうわ。私、今、30歳なのね。もしかすると、本当にやりたいことが見つかって、これからすっごく楽しい人生を送れるかもしれないでしょ。まだ、諦めちゃうには、ちょっと早いよね。だけど、これからの5年がなにも変わらなかったら、島での生活も考えてみてもいいかも』 『抽選に当たった人が一度パスすると、10年間はリストから外されるんだ。10年後に希望しても、抽選に当たるかどうかはわからないよ。希望者は多いんだ』 『そっか。ね、一口も食べない?』フォークでモンブランを指した。 『いや、ありがとう。本当にいらない』 大きな口を開けて、かおりがモンブランを食べる。 失敗した人たちにとってのパラダイス……?違う。失敗した人にしか、理解できないんだ。本土の矛盾が。だから無意味な競争を永遠に続ける」〔pp. 63-64〕。 かおりの言うことも、わかる。「自由の平等」を理念として掲げるリベラリズムに対する批判においても、そういったことが言われることがある(あまり言われないけれど)。 「拓が言う。『口惜しいと思うから、頑張るんだ。あいつより上手くなりたいと思うから、練習するんだ。それでさ、その先は本当に難しいんだけどさ、どれだけ頑張って練習しても、あいつにはかなわないと知る瞬間があるわけよ。認めたくないんだけど、そういうのがわかっちゃう時があるんだな。辛いけど、それを乗り越えるとき、人を敬う心をもてるようになるんだ』」〔p. 199〕。 「『試してみたら、いかがです?』 『なにをですか?』 『その完璧な理想社会を、どこかではじめてみたらどうですか?1週間でも1ヶ月でも。私なら全員、逃げ出す方に、100杯の水割りを賭けますが。お替りは?』 『お願いします』空のグラスを滑らせた。 岡本が流れるような所作で水割りを作り、僕の前に置いた。 僕は『どうしてそんなに人気ないかなぁ』と呟いた。 『社会のために生きているんじゃないからです』 はっとして、僕はグラスに伸ばしていた手を止めた。 〔……〕 岡本が、カウンターの端にできあがった飲み物を並べた。 それらをウェイターが持ち去ると、岡本は僕の前に戻ってきてカウンターを拭いた。『自分が大事です。その次に、自分の好きな人が大事です。それと同じくらい自分の家族が大事です。その次に、自分や自分の大事な人が幸せに暮らせる社会も大事だと考えています。大事な順番でいうと、社会はずっと後なんです。もちろん、ルールは大事です。規則がなければ、とんでもないことになるでしょうからね。ですが、自分にとって大事な順番は変わりません』 世界がぐるっと回った気がした。 岡本が言う通りだ。 まず、島民が幸せになることが大前提のはずだった。そのためのルールだった。 どうして僕は順番を間違えたんだろう。 ルールを破る人がいると知ったからだ。そうだ。だからだ。 きっちりと島民を監視しなくてはと考えてしまった。間違ってはいない。僕は正しい。 だが――。 それでは島民は息苦しいのか? ルールを緩くすれば、島民は幸せなのか?違う。平等な社会が保たれてこそ、平和があり、幸せがある。いや、あると思っていたのは僕だけだった」(pp. 325-326)。 「僕はすっかり元気のなくなった、たこ焼きの上の鰹節を見下ろす。頭の中では冷静に柴田の話をリフレインしているのだが、心臓はドキドキしていた。手で胸を押さえた。 柴田が言った。『ほかに方法はないんでしょうか?不公平ではなくて、でも個性は尊重されて、皆が幸せを感じられるような。無理ですかねぇ』 『時には達成感を得られるような、社会ですか?』 『えっ?そうです、そうですよ。よっしゃあと、ガッツポーズする瞬間があるからこそ、生きてるって実感できるんですから』 僕は浮かんだ考えを抑え付けるように、拳で胸を軽く叩いた」(p. 337)。 教育学では、よい人間とは何か、と同時に、よい社会とは何か、が問われる。 ときに、よい社会とは何か、そのよい社会を担う人間とはどのような人間か、その人間を育てるような教育とはいかなるものか、というように議論される。 それは逆なのか? 教育学は、よい人間を育てることだけを考え、社会については言わないでおく、社会づくりは、教育によって生み出されたよい人間に委ねればよい、だから「よい人間」とは、自らが生きる社会のありようを自由に構想できる人間のことである――そのように言うこともできる。 人間から社会を、社会から人間を――難しい。 @自室
by no828
| 2008-10-22 23:21
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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