思索の森と空の群青

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2017年 02月 25日 ( 1 )


2017年 02月 25日

それを驕りだと言えてしまうことが、自分の驕りだとは思わない?——辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

 辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』講談社(講談社文庫)、2012年。23(1020)

 単行本は2009年に同社

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 娘は母を殺したのか。山梨県が舞台です。「望月」という姓の女性が出てきます。たしかにこの地には“望月さん”が多いです。わたしの職場にはどうやら4人いるようです。

 “田舎の女の論理”に対する主人公の違和感はおそらくもう少し一般化可能で、わたしにも理解できるものでした。自分より先に結婚した友だちの結婚式・披露宴に招かれた(実際に参加した)のなら、自分のときにも招かなければならない、招かないということは友だち関係を破棄すること、絶交することである——という考え方が本書には示されていて、あるいはこれも“田舎の女の論理”なのかもしれませんが、怖いと思いました。

 家を出たことは一度もなく、高校卒業後も地元の短大に進み、そのまま県内で就職したという彼女の「すごいね」には、言葉通りの感嘆と、それ以上に、突き放した「違うもの」を語る感覚があった。それは彼女だけではなく、地元の他の友達と話すときにも共通していた感覚だ。
 羨望ではなく、興味がないという突き放し。彼女たちの持つ夢や欲望は、職業や環境に由来するような「外の世界」にはなく、「ここ」で「幸せ」になるというシンプルなものがすべてだった。〔略〕
 露骨に給料の話をすることはなかったけど、みんな多分、手取り十万ちょっとくらいだったんじゃないだろうか。私の東京の友達は、独身の子はほとんどが一人暮らしだが、地元ではパラサイトシングルすることが不可避の前提だった。彼女たちの人生プランは、誰かと結婚しなければ先に進むことがない。「自立」は、結婚して初めて実現する。(25-6)

「小学校時代、チエは先生の印象に残る生徒ではなかった、ということですか」
「そういうわけでもないの。ただ、何て言ったらいいかしら。教職を長くやっていると、意識するのは常に今係わっている子供のことで、手を離れたクラスの子のことは、どれだけかわいい子でも、心配かけさせられた子であっても、途端に記憶の中にしまわれちゃうのね。何かきっかけがなければ思い出を取り出してみることはないし、だけど、逆を言えば、何かきっかけさえあれば、一気に細かいところまでいろいろ思い出すこともできる。チエミちゃんのことは、よく覚えていますよ」(85)

義務のように頻繁に会うのばかりが友達でないこと、それがわかる年になったことが感慨深かった。(174)

 公立の中学校から先の高校や大学は、自分で選んだ進学先だけあって、私と同じ程度の志向の、似た種類の人間が集まる。学力はもちろん、家庭環境、考える力までが釣り合っていたように思う。
 山梨に戻って、チエミたちと再会したとき、驚かされたのは、彼女たちの圧倒的な関心のなさ、考える力のなさだった。驚かされた、というよりは、思い出した、というべきか。中学校の頃と同じく、自分の身の回りの範囲と芸能ニュースにしか興味がないのだ。
(181-2)

 この家が心地いいのは、義母や義父を無条件に好きだと慕えるのは、他人だからだ。一緒に住んでいないからだ。きちんとわかっている。距離が近づけば、それだけ今は見えていない問題が見えてしまうのだろうということも。(196)

 啓太に白羽の矢を立てたのは、母だった。
 だから、私は啓太を選んだ。ほっとしながら、これで私はすべてを母のせいにできると安堵したのだ。この人は母が選んだ男。不幸になっても、私はその責任を母に求め、ぶつけることができる。母を罵ることができる。
 私が母の気に食わない相手を選び、いちいちそれが招いた不幸の原因を彼女につつかれることは、これでもうなくなるのだ。そう思い、復讐するぐらいの気持ちで啓太からの食事の誘いを受けた。
 けれど、啓太と不思議なほど気が合ってしまった。(225)

「格差という言葉ですべてをまとめるのは好きじゃないですけど、私と望月さんの間には差が横たわっていました。学歴とか、先生に恵まれたとか、そういう意味じゃなくて、意識の格差です。大学に進んでさえいれば正社員になれたかもしれないって考えることがそもそも驕りでしょう。それまでの働きぶりがそれなりのものだったなら、今回だって望月さんにきちんと声がかかったかもしれない」
それを驕りだと言えてしまうことが、自分の驕りだとは思わない? あなたは最初から正社員だったし、育ちも違う。どうあがいたって、チエ本人の立場で物事を考えることはできない
ええ、驕りでしょう」(298-9)

@研究室

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by no828 | 2017-02-25 14:27 | 人+本=体 | Comments(0)