2009年 06月 02日
ナショナリズム論の文脈で以下の本を読んだ。 梅森直之編『ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る』光文社(光文社新書301)、2007年。 アンダーソンは、中国生まれのアイルランド国籍保有者でアメリカの大学に勤める研究者。専門は、ナショナリズムの比較研究。 「ここで言っておくべきことは、わたしが、さまざまな意味において、アメリカ帝国主義の産物であるということです。ここで理解しておかなければならないのは、アジア地域におけるアメリカの立場が、他の帝国主義国家のほとんどの立場と異なっていたということです。 アメリカはアジアを包括的に支配しようという野心を持ち得た唯一の国でした(現在も持ち続けています)。すなわち、フィリピンはその野心の前では、小さな要素に過ぎなかったというわけです」(p. 26、強調引用者)。 強調したところを読んで、わたしはアンダーソンが信頼に足る研究者であると思った(超偉そうなコメント)。というのも、アンダーソンが「自分はどのようなポジショナリティ(位置性、立場)にあるのか、自分のポジショナリティがどのように構築され、構成されているのか」に自覚的であろうとしているからだ。つまり、アメリカがそうであったからこそ、アメリカの大学で政治学の訓練を受けたアンダーソンは東南アジアを対象にすることができた、ということである。しかし、そうしたことに無自覚な研究者は案外多い。 アンダーソンが信頼できると思った別の箇所。これは編者の梅森先生(専攻は日本政治思想史)の説明。 「境界を持たない、人と人との新しいつながりが生まれ発展したことを評価する点で、アンダーソンは、紛れもないグローバリストである。しかし、そのつながりが、経済的利害に一元化されることを拒む点において、彼はきわめて反グローバリスト的だ。アンダーソンのグローバリズムに対する態度は、ナショナリズムに対するときと同様に、きわめて両義的である」(p. 164)。 両義的であることに対しては、「結局どっちなの?」と言われ、批判されることが多いけれど、わたしは両義的であることは大切なことだと思う。物事の二面性というか、こういうときには肯定的評価を下しうるけれど、こういうときは否定的評価をする、というような態度は重要だと思う。もはや、それさえあれば物事を一刀両断できるような理論的な武器はないと思うし、あったとしてもおそらく使ってはいけない。 以下は梅森先生の科学論。 「科学には、相反する二つの役割があると僕は思う。その一つは、複雑な事象をより単純な要素に還元することで、人間の考える力や手間を省こうとするものだ。もう一つは、あまりにもあたりまえすぎて、誰も考えようとしなかったことを問題として発見し、新たに考察の対象とすることだ」(p. 119)。 アンダーソンは後者。「日本人」ってみんな言うけれど、そもそも「日本人」って誰?ということを考える必要はある、というか、そういうことを考える人がすこしは必要なのである。 わたしも後者でありたいと思う。 ちなみに、この本の編集に携わったのは、わたしの大学のときの先輩であることが判明。「あとがき」に先輩の名前が書いてあった。そういえば、この本が出版された2007年に、先輩からMLにて「あたしが関わった本が出たからみんな買って読んでね!」という >先輩 遅ればせながら、読みました。おもしろかったです。 @研究室
by no828
| 2009-06-02 15:46
| 思索の森の言の葉は
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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