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思索の森と空の群青

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2009年 10月 28日

ぼくらは野蛮人じゃないんだ。イギリス人なんだ——ゴールディング『蠅の王』

 午後から後輩たちの博士論文中間発表会。審査会ではないから院生も発言できるのかと思いきや、できず。不満。不満。を抱えて FD プログラム。模擬授業などを拝見。授業してみるとわかるけれども授業には「わざ」が必要。今のうちから盗んでおくべし。プログラム後、再び研究室に戻り、発表者たちにメイルにてコメントを送る。

 そして食後。研究室でカレーを食べたら室内が加齢カレー臭に包まれる。すまぬ、同室者たちよ。でも、何を食べたかは一嗅瞭然。ときどき、入室したさいに「むむ、これは何を食べた臭いだ。一体何を食べたんだ」と不審に思うことがあるが、それよりはきっとよい。

 65 (198) ゴールディング、ウィリアム『蠅の王』平井正穂(訳)、集英社文庫、集英社、1978年。
(原著は1954年刊。タイトルは Lord of the Flies

 南太平洋の孤島に少年ばかりを乗せた飛行機が不時着して……。楽園と思われた島で行なわれたのは悲惨な殺し合い。ルールとか秩序とか、人間の信頼関係の構築とか、そういうことを考えさせられる。

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「『烽火の番をする、特別な係を作る必要があると思う。いつ船がすぐそこまでこないともかぎらないからね』——と、いいながら、ラーフは、一直線にぴーんと張ったような水平線のほうに向かって腕を振った——『もし烽火をしょっちゅう上げていたら、大人たちがここへ救助にやってきてくれるに違いない。それからもう一つ。もっとたくさんの規則がいると思う。ほら貝のある所には、集会が開かれていると考えなければならない。下の浜辺でだろうと、この山の上でだろうとその点同じだ』
 少年たちは賛成した。〔……〕ジャックは両手を出してほら貝をとり、煤だらけの手でこのたいせつな品物を注意深く抱きかかえ、立ち上がった。
『ぼくはラーフの意見に賛成する。ぼくらは、規則を作ってそれに従わなければならない。つまり、ぼくらは野蛮人じゃないんだ。イギリス人なんだ。そして、イギリス人は何をやっても立派にやれるんだ。だから、やるべきことはきちんと、ぼくらはやらなければならないんだ』」
(65頁。強調は引用者)。

「ぼくらは野蛮人じゃないんだ。イギリス人なんだ。そして、イギリス人は何をやっても立派にやれるんだ」に「ほえー」と思ってしまった。「ここで『イギリス人』か!ここでナショナル・アイデンティティが出てくるのか!」という具合に。自己規定のさいの「ナショナル・アイデンティティ」の強さ。
 おそらく少年たちは「イギリス人」ばかりだから、同一の集団性を意識させるために使われたのだと思うし、そういう意図がジャックになかったとしても、わたしはそういうふうに解釈する。
 けれどもそれ以上にやはり、「イギリス人だから立派にしなければ」という論理がすでに少年たちに内在されていることにわたしは驚く。イギリス人だって変な奴がいっぱいいると思うけれど、そういう人たちはこのときの「何をやっても立派にやれるイギリス人」にはきっと含まれていない。
 それから、原著がないので結論は出せないが、「イギリス人」の範囲が気になる。連合王国 United Kindom の構成員すべて、つまり「グレイトブリテン島および北部アイルランド」の構成員すべてを指して「イギリス人 British」なのか、あるいは主とされるイングランドの構成員、つまりイングランド人のみでもって「イギリス人 English」なのか。あるいは植民地の人たちはどうなるのか……。

 いずれにしても、「イギリス人」って誰なんだよ。

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「『ぼくがいおうとしたのは……たぶん、獣というのは、ぼくたちのことにすぎないかもしれないということだ』
 『ばかな!』」
(141-142頁)。

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@研究室

by no828 | 2009-10-28 19:25 | 人+本=体


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