2010年 01月 16日
2 (235) 瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』新潮文庫、新潮社、2006年。 版元 → ● 世田谷ボロ市に行こうかしらと思っていたのだが、何だか勉強がしたくて研究室に来た。 単行本は2004年に同社より刊行。自殺をしようと人里離れたところにやって来た若い女性(たしか23歳)と民宿を営む男性(たしか30歳)のやりとり。“わたしの人生何か違う”というときの身の処し方。高校生から大学生にかけて読むべき本という印象。すーっとは入ってこなかった。 ちなみに、瀬尾まいこは『幸福な食卓』に続いて2冊目。個人的には、『幸福な食卓』>『天国はまだ遠く』。 □■のあいだが引用箇所、〔〕内と強調は引用者、最後の数字は頁数。 □ 「これって、ミスチルじゃないですよ」 「そうか」 「そうかって、ほら、よく見てください。これって、外国人でしょう? しかも、この人達ってすごく前の人で、ビートルズっていうんです。っていうか、かなり有名なんですけど」 「別にええやん。結局、あれやろ? ミスチルでもビートルズでも、なんや世界平和が大事で、人は人を傷つけるけど、愛することは素晴らしい。ってな感じのことを歌っとるんやろ」 「そればかりではないと思いますけど……」 〔中略〕 「それ以外のことやったら、いちいち歌わんでもええやん。どちみち世の中ラブアンドピースやったらええんやろ。ラブアンドピース以外のことが聴きたかったら、吉幾三を聴けばええ。それ以外のことは幾三がみんな歌ってくれとるから」 ■(91-2) 吉幾三の件はよくわからないが、歌って結局そういうことでしょ、という件は共感できる。 □ 私はここでの暮らしに完全に馴染み、とても上手に暮らせるようになっていた。風呂掃除や料理をする田村さんをのんきに眺められるようにさえなってきた。怠慢に過ごしている。 これからのことは、相変わらずわからない。どうするのか、未だ見当が付かない。時間が経てばわかるものだと思っていたけど、一週間が経っても、二週間が経っても、わかりそうもなかった。ただ、ここにいては、答えなど出るわけがない。ここにいるのは気持ちがいいけど、ここでは永遠に先を見つけられない。それは感じはじめてはいた。 ■(117) □ 「いくらなんでもひどすぎる……」 私は一人でそうつぶやいて、また笑った。 そして、私が描いたとんでもなくへたくそな絵は、私に答えを教えてくれた。 私は自然を見ることはできても、それを描き出すことはできない。自然の中に入ることはできても、自然と暮らせる人間ではないのだ。 私はこの地が好きだ。〔中略〕だけど、ここには私のするべきことはどこにもない。自然は私を受け入れてくれるし、たくさんのものを与えてくれる。でも、私はここで何をすればいいのかちっともわからない。 都会に戻ったからといって、するべきことがあるわけじゃない。やりたいこともない。存在の意義なんて結局どこへ行ったって、わからないかもしれない。けれど、それに近付こうとしないといけない気はする。ここで暮らすのは、たぶん違う。ここには私の日常はない。ここにいてはだめなのだ。 〔中略〕温かい所にいてはだめだ。私はまだ若い。この地で悟るのはまだ早い。私は私の日常をちゃんと作っていかなくちゃいけない。まだ、何かをしなくちゃいけない。もう休むのはおしまいだ。 ■(169-70) 瀬尾さんは中学校の国語(日本語)の先生だそうです。先生の経験が小説になっている模様。 @研究室
by no828
| 2010-01-16 15:28
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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