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思索の森と空の群青

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2010年 03月 17日

「アメリカ」について自分の見解を持つ「義務」——佐伯啓思『砂上の帝国アメリカ』

 今日は英語論文をたくさん読んだ。研究室にはわたしだけであったため、音読もした。

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 版元 

 佐伯啓思『砂上の帝国アメリカ』飛鳥新社、2003年。

 某ブックオフにて偶然発見した本(売ったのは後輩タケワキではないか)。著者の思想的な立場とわたしのそれは同じではないのだが、勉強のため。ただ、こっそり書いておくと、「帝国」という印字に惹かれて一度手に取ったはいいものの“やっぱり止めた”と棚に戻したという経緯がある。が、“読まず嫌いはよくない”と思って再度取り出してぱらぱらめくると、ネグリとハートの<帝国>にも言及があるし、また、105円ということもあって買うことにしたのである。

 読んでいると、鉛筆で一カ所「小林よしのりと同じ意見」との書き込みあり。どこがどう同じなのかいまいちわからなかったが、書き込みは消しゴムでごしごし消した。


 言うまでもなく、誰もが「アメリカ」について自分の意見を持ち、発言する権利を持っている。しかし、今日求められているものは、そうではなく、「アメリカ」について自分の見解を持つ「義務」ではなかろうか。とりわけ世界や日本社会の状況に関わる発言をする機会を持つ者ならば、その発言の基軸に、その人なりの「アメリカ論」がなければならないように思う。〔略〕
 理由は簡単だ。この十数年に及ぶグローバリズム、情報・通信のハイテク化、軍事技術の核心、世界の政治・経済次元の相互作用の高まり、といった誰もが口にするムーブメントに対して、誰もが、その生活において、もはや「アメリカ」の影響から無縁ではあり得なくなってしまったからだ。なぜなら、これらの動きの中心には常に「アメリカ」が存在し、そして、例えば日本も、十年に及ぶ「構造改革」という「アメリカ化」によってその社会の構造を隅々まで変えようとしている。
 ここで言う「アメリカ」とは、具体的なアメリカ社会というよりも、「アメリカという文明」のことである。〔略〕
 この「アメリカ的文明」の世界への拡散を、私は「アメリカニズム」と呼んだ。むろん、このように問題を設定したときには、「アメリカニズム」の世界への拡散、とりわけそれがわれわれの日本社会に対して及ぼす影響に対してけっして好意的な傍観者ではあり得ない、ということが意味されている。〔略〕「アメリカニズム」の批判的分析は、現代の文明に関心を持つ者にとっては不可避の作業となってしまっているのではなかろうか。
〔略〕
 そして、私にとって、アメリカの〔2003年来の〕イラク攻撃以上に異様な事態は、わが国の、この問題に対する大方の反応であった。一方では、相変わらずの左翼的な反戦的アメリカ批判がとぐろを巻き、他方では、いわゆる保守派によるほぼ全面的なアメリカ支持の言説が渦巻いた。左翼的反戦主義が「戦争反対」という以外に代替的なプログラムを打ち出せない以上、この立場はもはや破綻していると言わざるを得ない。しかしいっそう重要なのは、保守派の対応であった。顕著だったのは、保守派によるアメリカ支持、そして、アメリカを支持する日本政府の方針への全面的賛同であり、驚くべきことに、戦後日本の武装解除と民主化というGHQによる占領プログラムをイラクに適用するというアメリカの方針を、保守派がこぞって支持したのであった。

■(2-4)

 ふむ。これ以外にも勉強になったことあり。ただ、この点を中心に読んで思ったことを列挙。

1.アメリカという思想(本文では「文明」と言っているが)について語らざるをえない、語らなければならないという点には同意。言説の布置からして、アメリカという思想を無視するわけにはいかないという感覚がわたしにもある。もちろん戦略的に無視するという手立ても考え方としてはありうるが、アメリカにはそれを用いないほうがたぶんよい。

2.「保守派」と「左翼」の主張は同じになることがある。その根拠と提案内容は違うけれど。だから主張だけを見るのではいけない。

3.日本の教育学の状況に思いが至る。日本の教育学者の3分の1は何らかのかたちでアメリカ研究になっているのではないか(本当は「日本の教育学者の半分は」と書くつもりでした。さすがに言い過ぎかと思いまして)。
 わたしの近くで多いのは、こういうアメリカ研究。すなわち、(1)日本にはAという問題がある、(2)Aという問題に対して日本は十分な対応策が練られても実施されてもいない、(3)それに比べてアメリカはすでにAに対して効果的な取り組みをしている(アメリカってすごい! アメリカ大好き!)、(4)日本はアメリカに学ぶべきである、(5)ゆえに本稿ではアメリカを研究する。
 個人的にはこういう思考様式を好まない。

4.後輩ウチヴィルは日本の教育研究をすると言っていたが、アメリカからの日本に対する要求と日本の実際の政策の関係という切り口はどうか。昔は国際政治を勉強していたというのだし、その知的関心を現在の、そしてこれからの研究にも活かしたほうがよいのではないか。(と本人の研究内容をほとんど知らずに無責任に言い放ってみる。でも、話す機会のあるときに言ってみよう。ときどき、“あ、これは奴の研究に関連あるな”という着想があるわけです。)

 以上。 


@研究室

by no828 | 2010-03-17 19:49 | 思索の森の言の葉は


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