2011年 10月 04日
95(417)伊坂幸太郎『終末のフール』集英社(集英社文庫)、2009年。 ※ 単行本は2006年に同社より刊行。 版元 → ● 題名『終末のフール』を含め「○○の●ー●」と題された、互いに絡み合う8つの作品から成る。その名付けはときにやや強引でもあるのだが、文章として綴られたことばのなかから散りばめられた意味あることばを拾っていくのは愉しい。 終末が迫ったとき、終末を意識したとき、人間はどうするのか。 □ 「優しい」 「優しいのと、小心なのとは、紙一重だよ」和也が小声で洩らした。 □(18) □ 選択できるというのは、むしろ、つらいことだと思う。 〔略〕 選択の自由なんかいらない。選択の余地がないほうが好ましい。車で旅行する時も、目的地に着く経路は一つであってほしいし、定食屋の昼食は毎日、固定で一品にしてもらえるとありがたい。僕から言わせれば、そうだ。 □(48-9) □ 「怒ってるかな」と美咲が首を曲げ、自分のお腹を見下ろした。 「怒ってる?」と聞き返したところで、彼女の言わんとすることが分かった。確かに、怒っているかもしれない。無計画に、無責任に、無頓着に子供を作った僕たちに向かって、彼女の腹の中の子供は、勝手に妊娠しておいて悩むんじゃねえよ、と憤っているに違いなかった。「怒る権利はある」と僕は実感を込めて、言う。怖さすら感じた。 □(71) □ 「考えたんだ。そして決めたんだ」〔略〕「答えははじめからあったんだ。それを言う度胸がなかっただけで」 □(84) □ 「わたしが読んだ本に、確かビジネス書だったと思うんですけど、書いてあったんです。『新しいことをはじめるには、三人の人に意見を聞きなさい』って」 「三人?」 「そうなんです。まずは、尊敬する人。次が、自分には理解できない人。三人目は、これから新しく出会う人」 「面白いアドバイスね」 □(159) □ 「問いかける?」 「俺は、俺を許すのか? って。練習の手を抜きたくなる時とか、試合で逃げたくなる時に、自分に訊くんです。『おい俺、俺は、こんな俺を許すのか?』って」 最後にインタビュアーが、「苗場君は結局、ローキックと左フックしかできないんだよね」と冗談まじりに言った時に、こう答えてもいた。「ローキックと左フックができて、それと、客を夢中にさせられれば、他に何がいるんですか?」 □(197) □ 「苗場君ってさ、明日死ぬって言われたらどうする?」俳優は脈絡もなく、そんな質問をしていた。 「変わりませんよ」苗場さんの答えはそっけなかった。 「変わらないって、どうすんの?」 「ぼくにできるのは、ローキックと左フックしかないですから」 「それって、練習の話でしょ? というかさ、明日死ぬのに、そんなことするわけ?」可笑しいなあ、と俳優は笑ったようだ。 「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するほかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」 □(220) □ 「真に受けたからどうだって言うんだよ」 「みんなが真に受けたから、落ちることになったんじゃないの」 「馬鹿言うな」俺は笑い飛ばす。「人の気持ちで小惑星の軌道が変わるかよ。二ノ宮君、本気で言ってるの、って感じだ」 「そうとしか思えないよ、僕は」 □(243) □ マンションに出戻った時、両親は呆れもしなければ、怒りもせず、淡々としていた。「こんな娘を許してください」と挨拶をすると、父と母は愉快げに顔を見合わせて、「かわりに、おまえもいつか、誰かを許してあげなさい」と言った。 □(275) □ 「必死なもの?」 「じたばたして、足掻いて、もがいて。生き残るのってそういうのだよ、きっとさ」 □(365) 伊坂幸太郎には、読んでいて知性を感じます。 ちなみに、解説は吉野仁。 □ 人はいかに生きるべきか。『終末のフール』に描かれているのは、“人生のルール”だ。どんなに悲惨だったり希望がない状況だったりしても、しっかりと強く生きるための、そして哀しみを抱えている人に寄り添うための、“人生のルール”。あと三年の命と告げられようと、それでも人は生きていく。豊潤な人生(ラッシュライフ)を求めて。 □(382) うまい。(→ ●) @研究室
by no828
| 2011-10-04 13:43
| 人+本=体
|
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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