祝 105(427)村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編』新潮社(新潮文庫)、1997年。
※ 単行本は1995年に同社より刊行。
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さらに続きです。
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「まったくたいしたものだ。君のような日本人が数多くいるかぎり、日本はきっといつかこの敗戦の混乱から立ち直るだろう。しかしこのソビエトは駄目だ。残念ながら見込みはほとんどないね。皇帝時代の方がまだましなくらいさ。少なくとも皇帝陛下はややこしい理屈についていちいちない頭をひねる必要はなかったものな。我等がレーニンはマルクスの理屈の中から自分に理解できる部分だけを都合よく持ち出し、我等がスターリンはレーニンの理屈の中から自分に理解できる部分だけを——それはひどく少ない量だったが——都合よく持ち出した。そしてこの国ではな、理解できる範囲が狭い奴ほど大きな権力が握れるようになっているんだ。それは狭ければ狭いほどいいんだ。いいかマミヤ中尉、この国で生き残る手段はひとつしかない。それは何かを想像しないことだ。想像するロシア人は必ず破滅する。私はもちろん想像なんかしないね。私の仕事はほかの人々に想像をさせることだ。それが私の飯のたねだ。そのことは君もよく覚えておくといい。少なくともここにいるあいだは、何かを想像したくなったら、私の顔を思いだすんだな。そしてこれはいけない、想像するのは命取りだって思うんだよ。これは私の黄金の忠告だ。想像するのは誰か別の人間に任せることだ」
□(425-6.傍点省略)
想像(力)が大事、というのは村上春樹の一貫した姿勢だと思う。
想像(力)は、人を安定させない、現実を安定させない。
@研究室