2011年 12月 20日
137(459)村上春樹『雨天炎天——ギリシャ・トルコ辺境紀行』新潮社(新潮文庫)、1991年。 ※ 単行本は同社より1990年に刊行。(単行本の出た翌年に文庫化か……) 版元 → ● サブタイトルのとおり、旅行記である。英語タイトルは、In the Holy Mountain, on the Turkish road 。ギリシャでは、まさに神の山、具体的には修道院がたくさんある山に登って修道院を渡り歩き・泊まり歩いたのであった。 □ 「ウゾー飲むか?」と訊くので僕らはありがたくウゾーを一杯いただくことにする。このウゾーの瓶がものすごく大きい。ウゾーはきゅっと温かく胃にしみる。「これだぜ」という感じがする。なんだかだんだんウゾーなしでは暮らせない体になりつつあるような気がする。何にせよ土地の酒というのは、その土地に馴染めば馴染むほど美味いものなのだ。キャンティー地方を旅してまわったときはワインばかり飲んでいた。アメリカ南部では毎日バーボン・ソーダを飲んでいた。ドイツでは終始ビール漬けだった。そしてここアトスでは、そう、ウゾーなのだ。 □(41) で、その □ ウゾーというのはギリシャの焼酎のようなもので、アルコール分はとても強い。匂いはつんと強烈で、水を注ぐと白濁する。そして安価である。どちらかというと日本人の嗜好にはあわない酒だと思うし、僕もそれほど好んで飲むわけではないのだが、しかし体が疲れていると、アルコールがきゅっと胃にしみて体がリラックスする。 □(28) のであります。 □ 雨に打たれただけで人はなんと気弱になるのだろうと、僕はふと思った。もっとひどい雨に三日打たれたらあるいは宗教に走ってしまうかもしれない。修道院のベッドは僕らにとってそれくらいありがたいものだったのだ。 □(43) □ それから我々の手持ちの食料もだんだん少なくなってきていたので、厚かましいとは思ったのだけれど、クレマン神父に「もしよろしければ何か食べ物をわけていただけないだろうか」と訊いてみた。クレマン神父は肯いて姿を消し、しばらくしてからたっぷりと食品を入れた袋を手に戻ってきた。中にはトマトとチーズとパンとオリーヴの漬物が入っていた。貧しいスキテからこんなに食料をわけてもらうのは申し訳なかったが、この親切はありがたかったし、実際あとになってすごく役に立った。カラカルのマシューといい、このプロドロムのクレマン神父といい、彼らの無償の好意がなかったら、我々はもっとずっとひどい目にあっていたことだろうと思う。僕には宗教のことはよくわからないけれど、親切のことならよくわかる。愛は消えても親切は残る、と言ったのはカート・ヴォネガットだっけ。 □(70) ヴォネガットは1冊しか読んだことがない。古本屋にはなかなかないのだ。 なお、文中には、クルド人問題の背景を解説した箇所(154-7)もあり、改めて勉強になった。 @研究室
by no828
| 2011-12-20 12:05
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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