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思索の森と空の群青

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2012年 01月 15日

ずっと、正直な自分であることや。正直であることは、難しい——万城目学『プリンセス・トヨトミ』

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8(478)万城目学『プリンセス・トヨトミ』文藝春秋(文春文庫)、2011年。

※ 単行本は2009年に同春秋より刊行。

版元 → 




 金曜土曜と体調を崩していました。眼と胃です。ベッドで横になっていました。論文のあとは、やはりこうなります。

 眼も痛かったのであまり本は読めませんでした。ここで一気に放出、というわけにはいきません。

 さて、万城目学です。森見登美彦と同系と聞いていましたが、未読でした。ようやくです。本書は、「大阪国」の話であります。それゆえに井上ひさしの『吉里吉里人』を念頭に置きながら読みはじめたわけですが、井上が浮き彫りにし、読み手に促しもした、「国家」とは何なのか、「自治」とは何なのか、という思考はあまり強調されなかったように思います。最終的には○○の絆へと収束していきます。

 いつもながらのことですが、「方言」の引用は難しいです。


 ↓ わたしはこれを自分へのエールとして受け取ります(勝手に)。


「なあ、真田」
 机の上に両手を置き、後藤はゆっくりと語りかけた。
世の中でいちばん難しいことって何やと思う?
 両手の指を組み合わせ、後藤は深みのある声で訊ねた。大輔が複雑な表情を浮かべ黙っているのを見て、軽くうなずき、あとを続けた。
ずっと、正直な自分であることや
 大輔は無意識のうちに背筋を伸ばした。
正直であることは、難しい

□(68)

 どれほど弁が立とうと、知識があろうと、ウソをついている人間は所詮弱い。世の中で最も強いのは、正直に行動する人間である。
□(305)

 ↓ 革命的思考への批判として読む。


「うまく言われへんけど……そうじゃないねん。僕には何となくわかる。ある日、何もかもがガラッと変わって、すべてがうまくいくなんてこと、世の中では絶対にない。どんなものでも少しずつ、ちょっとずつ変わっていくもんやと思う。せやから……」
□(142)

 ↓ 夢想の夢想であることの意味、夢想が夢想に留まり続けることの意義。


 今にして、大輔は思う。女子の制服を着て、学校へ行けたらどれだけしあわせだろう――と好き勝手に夢想していたときが、いちばん楽しかった、と。セーラー服を纏うだけで、魔法のように、目の前を塞ぐ障壁が一気に取り払われる気がした。長い長い夜が明けるように思えた。たった一枚のスカートが、すべてを解決してくれる“希望”そのものに感じられた。
□(149)

 ↓ これは論文においても求められる(ことがある)。「以上から、〜である」に留まらずに、「だから、〜すべきである」まで言えと、そう言われる。「〜すべきである」を言うための理論構成を組んできたのであればそれでよいが、そうではない場合はよくない。


 松平にとって結論とは、客観的な真偽を判断することではない。それを踏まえ、自分が何をすべきかを決めることにある。
□(281)

 ↓「男」(と「女」)という表現をするかどうかは別にして、分け方自体はわからなくもない。


「私が高校生の頃やったかなぁ……母親からこの話を教えられたのは。男はとにかくアホな生き物やから、一生懸命になって、自分たちだけで何か大切なものを守ってるつもりになってるけど、どうかそっとしておいてあげなさい。何かやってることに気づいても、見て見ぬふりをしてあげなさい——って」
□(516)


@研究室

by no828 | 2012-01-15 16:22 | 人+本=体


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