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思索の森と空の群青

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2012年 05月 17日

その時に探偵は、その世界の命題を証明する神たりうるのか否か——綾辻行人『セッション』

その時に探偵は、その世界の命題を証明する神たりうるのか否か——綾辻行人『セッション』_c0131823_1332491.jpg77(537)綾辻行人『セッション——綾辻行人対談集』集英社(集英社文庫)、1999年。

版元 → 


 京都大学大学院教育学研究科に進み逸脱行動論を専攻、という著者に俄然関心を持ちました。その著者の対談集。

宮部〔みゆき〕〔略〕何でも書けるんだけど、まあ七十五点ぐらいは取れるんだけども、この人でなきゃという決め球がいつも欠けるというふうになるのは怖いなと思いますね。(26)

楳図〔かずお〕 怖さというのは、一番根源的な人間の感情だと、僕、思うんです。〔略〕最初は、やっぱり食べられちゃ怖い、何とかしてここから逃げなければと考えることから知能が発達したんじゃないかなあと思ってるんですけどね。だから、僕は、恐怖というのは永遠だと思ってるんですけど。
綾辻 永遠です。
楳図 そうです。ですから、恐怖を取り除いてしまうと、その人の存在そのものが危うくなってしまいますね。怖さに対して平気になってしまうということは、非常に危ないことです。いつも、怖いという感情をどこかで持ってるということは、人間がここまで永らえた基だと、僕は思うんですけど。
(59-60)

綾辻 〔略〕「どんでん返し」というやつですね。それまで見えていた現実とは違う現実がそこで立ち現われ、その意外性に驚かされる。そういった点にすごく魅力を感じて、結局推理作家にまでなってしまったわけなんです。
養老〔孟司〕 そう。それは科学の世界もまったく同じです。科学の一番おもしろいところは、リアリティが突然がらっと変換して、まったく違った世界が見えてくるところですから。
(68-9)

大槻〔ケンヂ〕〔略〕僕は締切が近づいてくると、ああ、どうしよう、どうしようと思って……。最初は四時間で二十枚ぐらい書けたんですけれども、書くスピードがどんどん遅くなっちゃって、今は全然だめなんです。
綾辻 あまり偉そうなことは言えないけれども、それはやっぱりうまくなってきている証拠だと思いますね。
(91-2)

京極〔夏彦〕 難しいですけど、僕の根底にあるのは柳田国男なんですよ。柳田国男があって折口信夫がいて。折口信夫には『死者の書』なんていう素晴らしい小説がございます。
 いまだかつて影響を指摘されたことはないですけれども、子供の頃読んだ中ではけっこう残っているんじゃないかと思うんですよ。
——幼い頃からもう活字の中に飛び込んでいた。
京極 「柳田国男全集」を読みはじめたのが小学校の頃です。
(128-9)

法月〔綸太郎〕 逆に言うと、高い水準をクリアした作品が出ると、本格マニアは思わず重箱の隅をつついてしまうわけです(笑)。だから、細かいところで文句が出るとしたら、それは、勲章と言っていいのではないか。(212)

竹本〔健治〕〔略〕ぐるっと回って嫌いな部分とは何かという問題なんですが、突き詰めていっちゃうと、ミステリというのは最終的に謎が解決されちゃう。とりわけ、ただ一つの答を出しちゃうというところなんですよ。
綾辻 それは、本格ミステリというものについてある程度深く考えていった時に、必ずみんなが突き当たる問題かも。
竹本 そうなんだろうね。
綾辻 例えばエラリイ・クイーンが中後期に悩み抜いた問題というのも、結局のところ同じところに根があるんじゃないかと思えるんですが。完璧な挑戦状小説というのはありうるのか。探偵が観察者として事件に関わることによって、否応なく事件そのものが影響を受けて変容する。その時に探偵は、その世界の命題を証明する神たりうるのか否か。長い間本格ミステリに取り組んでいると、誰しもがそういった問題に行き当たるんですよね。
(236)

 わたしはこの最後の部分をしみじみと読み、しみじみとそのページの角を折りました。


@研究室

by no828 | 2012-05-17 14:05 | 人+本=体


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