2012年 09月 07日
135(595)髙村薫『神の火 上・下』新潮社(新潮文庫)、1995年。 版元(上) → ● 版元(下) → ● 単行本は1991年に同社より刊行。ただし、文庫化にあたり全面改稿。 原発をめぐる国際政治に入り込み、また、引きずり込まれる人間のお話。本書が原発に関するものであることは以前から知っていました。購入したのは311後です。ただ、すぐに読みはじめることができませんでした。顔本で学類の先輩(同郷)が本書に言及していたのを目にして、読もうと思いました。どっぷりと没入するわけでもなく、知らんぷりを決め込むわけにもいかず、中途半端に関わっている(関わらざるをえない)者の思考構造・感情機制というものがここにはあります。 初 髙村薫です。 「せめて、政治家が絡んでないことを祈ってますわ。原子力は、政治の道具にだけはなったらいかんと思いますし……。そう言えば、新しい原子力白書をご覧になりましたか? 原発は二十一世紀の電力供給の主流に昇格しましたよ。《エネルギー・ベスト・ミックス》の建前が消えたんです。でも僕に言わせたら、政府が調子に乗るのは勝手やけど、原発強迫マニュアルみたいなもんをうやむやにして、主流もくそもあらしません。もし音海でなんかあったら、原子力行政なんかいっぺんに吹き飛んでしまうのに」 そうだ。良も自分も、今、しておかなければならないのだ。保身であれ、手続きであれ、脱線であれ。明日がどうなるか分からない人間は。(上 224-5) 「そんな言葉は、誰にも保証出来ない。人間は、《絶対に》という言葉は使ってはならない生き物なのだよ。人間が造った原子炉と同じだ……」(上 276) 「人間という車は、なかなか運転手の言う通りには動かんものさ。言う通りに動くのは機械だ」 「俺が柳瀬に借りたんは、小さい希望一つや。人間には理想というものがある。人間は、理想を持つことの出来る動物や、という希望一つ……」 ついでに、東西の枠組が主義の対立ではなく、国家という体制の対立でしかないこと、民族主義や貧困の火種も、大量破壊兵器の危険も、人権の抑圧も全部封じ込めて、大国がそれぞれ臭いものに蓋をしたのが鉄のカーテンだ、といった与太話を吹きこまれながら。(下 35) 「何も残さないで消えてしまうことが出来へんのが物質やて言うたん、お前やぞ」(下 121) すべての科学技術は本来、その運用に当たって完全という言葉は使えない人間の所産に過ぎないが、いったん壊れたが最後、周辺地域が死滅するような技術の恩恵を、人間はどれほど受けてきたというのか。原子力は、人間にどれほど必要な代物だったというのか、そう思い至ると、島田は回復不能の懐疑の闇に陥った。(下 199) 「お前こそ、音海へ何をしに行くんや」〔略〕 @研究室
by no828
| 2012-09-07 18:35
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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