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思索の森と空の群青

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2012年 09月 17日

日々の料理を作り、仕事机をセットし、一応の本と音楽を揃え——村上春樹・稲越功一『使いみちのない風景』

日々の料理を作り、仕事机をセットし、一応の本と音楽を揃え——村上春樹・稲越功一『使いみちのない風景』_c0131823_1559024.jpg
139(599)村上春樹・稲越功一『使いみちのない風景』中央公論社(中公文庫)、1998年。

版元 → 


 文章+写真。中公文庫の村上春樹は、なかなか渋いと思います。

 つまりある程度の期間その場所に腰を据えて生活をすれば、それはおそらく「住み移り」の場ということになるし、短い期間でそこを通り過ぎていくのであれば、それはおそらく旅行の場ということになる。
 僕の場合で言えば、そこで日々の料理を作り、仕事机をセットし、一応の本と音楽を揃えて——、というのがその「生活をする」ということの具体的な定義になるだろう。
 もう少しつっこんで言うなら、「住み移り」という行為には〈たしかに今は一時的な生活かもしれないけれど、もし気にいれば、この先ずっとここに住むことになるかもしれないのだ〉という可能性が含まれている。僕はそういう可能性の感覚を、あるいはコミットメントの感覚を、愛しているのかもしれない。
(26-7)

 仮の住処と思っていた場所にもう随分と長いこと住んでいますが、それを経ての実感は、どんなに短い予定でも、住むときはちゃんと住む、ちゃんと生活することが大事だ、ということです。

「いや、ここには何かもっと別のものがあったはずなんだ。これだけじゃないんだ」
 でも僕らがそのときに目にして、そのときに心をかきたてられたものは、もう戻ってはこない。
 写真はそこにあったそのままのものを写し取っているはずなのに、そこからは何か大事なものが決定的に失われている。
 でも、それもまた悪くはない。

 僕は思うのだけれど、人生においてもっとも素晴らしいものは、過ぎ去って、もう二度と戻ってくることのないものなのだから。
(108)



@研究室

by no828 | 2012-09-17 16:18 | 人+本=体


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