人気ブログランキング | 話題のタグを見る

思索の森と空の群青

onmymind.exblog.jp
ブログトップ
2013年 02月 13日

人の頭の中のことって、どこまで他人に向かって手を伸ばせるんだろう——北村薫『覆面作家の愛の歌』

人の頭の中のことって、どこまで他人に向かって手を伸ばせるんだろう——北村薫『覆面作家の愛の歌』_c0131823_1552511.jpg北村薫『覆面作家の愛の歌』角川書店(角川文庫)、1998年。7(662)

単行本は1995年に同書店より刊行。

版元 → 


 北村薫を続けます。覆面作家シリーズ第2弾。“お嬢様名探偵”は作家でもあり、その編集者とのやりとりが軸になっています。

「研修期間が終わって、今の雑誌に配属されましてね。その時、一番最初に声をかけてくれたのが、先輩なんですよ」と、千秋さんに思い出を語ってみる。「分からないことがあったら、どんな馬鹿馬鹿しいことでもいいから聞け。ただし、同じことは二度聞くな、って」(25)

「B5にしろ、文庫にしろ、ハードカバーにしろ長方形。書く者、作る者、読む者、皆な、紙の四角が繋ぐんだね。——海の向こうとこちらに分かれても、——間で、泡だつ波や不機嫌な雲、それから気まぐれな風がいっくら騒いだって、本を手にしたら、いつだってあの人に会える。本を作る仕事って、そういうものなんだね」(25-6)

「人の頭の中のことって、どこまで他人に向かって手を伸ばせるんだろう」
 しばらく歩くと運河である。かかるのは黎明橋。
「それは——横恋慕から愛、それから思想、信念まで含めてのことですか」
「そうだよな。考えたら話はそこまで行っちゃうよな。《信念のためなら死ねる》——そいつは分かるな。けど、《信念のためなら殺せる》——となったら、あたしには分からない。でもさあ、主義主張のために殺される人って、世界に数限りなくいたし、いるし、これからもいるわけだろう。他人の胸の中にある秤にかけられてさ。だとしたら、そんな働きの出来る頭や心なんてものが、どうしてこの世にあっていいんだろう
 心は人を食うことがある。それを考えているのが、他ならぬ自分の頭であり、心であるのをもどかしがるように、千秋さんはこぶしを小さく合わせた。
(202-3)

「小さいものって可愛いだろう」
「そうですね」
あたし、今、これを見下ろしてる。そして可愛いと思っている
「はい」
だとすると、そういうのって、生意気じゃないかな
(205)


@研究室

by no828 | 2013-02-13 16:22 | 人+本=体


<< 人が生きていくのも難しいけれど...      気がすめば、それでいいんですか... >>