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思索の森と空の群青

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2013年 03月 06日

遠足に行かない代りに、そのお金で本を買いたい——井狩春男『返品のない月曜日』

遠足に行かない代りに、そのお金で本を買いたい——井狩春男『返品のない月曜日』_c0131823_18222421.jpg井狩春男『返品のない月曜日——ボクの取次日記』筑摩書房(ちくま文庫)、1989年。20(675)

単行本は1985年に同書房より刊行。

版元 → 


 本に関わる仕事のうち、「取次」に就かれている方のエッセイ。「日刊まるすニュース」という本に関する手書きの個人新聞を発行されていた(いる?)方でもあります。まだよくわかっていないのですが、「取次」というのは「出版社」と「本屋」のあいだにあるようです。本は、「出版社」→「取次」→「本屋」の順に動きます。何がよくわかっていないかというと、「本屋」が「出版社」から直接仕入れればよいのでは? と思ってしまったからです(「取次」の必要性についての説明は本書のなかにあったような、なかったような……)。本業界における「商社」のような位置づけでしょうか、と書いて、「商社」もよくわかっていません。

 小学校三年の時、貧乏で本が買えなかった(貧乏は今でも変わらない)。回りの生徒たちの中には、いつも違う本を読んでいる子供がいて、とっても羨ましかった。遠足の日が近づいた。母と交渉する。「遠足に行かない代りに、そのお金で本を買いたい」。変わった母で、すぐに承知してくれた。
 遠足の前日、先生が「明日、遠足に行く人、手を挙げて」と言う。いつものように全員だと思ったに違いない。前々から一度「オレ、行かないヨッ」と言ってみたかった。ようやく実現出来た。先生は、ボクだけ一人残して全員を帰したあと、そばにしゃがみこみこう言った。「君も行きなさい。費用は先生、出してあげるから」——カタク断わった。みんなが遠足に行ったあと、ボクはいちもくさんに本屋に駆けて行った。湯気の出るコインを持って——
(15)

 出版社の作り方も聞かれた。これは知らなくてもオカシクない。出版社に勤めている人でも答えられない。それは次の手続きをすればいいのである。
 神楽坂にある書籍協会で出版社コード(本のウラに印刷される出版社の番号)をもらってくる。その手続きは簡単で、申込用紙に出版社名や代表者や住所・電話番号などを書き込んで提出するとその場でもらえる。これで新しい出版社の誕生である。それ以外法的な手続きは一切必要としない。
 作り方はこれでおしまいであるが問題は出版活動をどうするか、である。
(33-4)

 最初、大学生協の主たる活動は学生に安くてボリュームのある食事を出すことだった。どの大学生協にも食堂ぐらいしかなかった。それだけでは学生が不便であろうから書籍部を設けたらどうかと提案し、運動したのが、わが鈴木書店だった。いまでは、大学生が必要とする書籍や雑誌は大型書店よりも揃っていて利用度が高い。(61)

 店の入口近くには、平凡社の「大百科事典」の一回が高く積まれている。先日の新聞にはこういう本の型の百科事典は今回で最後ではないかと書かれていた。つまり、今後は一枚のレーザーディスクで収まってしまうと言うのだ。
 ボクは、すでにこの最後(?)の本の型の百科事典が欲しくって予約をしてある。まもなく自宅に配達されるはずだ。届いたらすぐに、ズッシリとした手ごたえを楽しみながら頁をめくってみようと思っている。やはり、紙に印刷されて、本の型をしていなければ味けない。〔略〕
 レーザーディスクやマイクロフィルムに本を収めることは、カレーライスを同じ味で同じ栄養のある小さなビスケット一枚に変えてしまうのと同じようなものだと思う。
(182)


@研究室

by no828 | 2013-03-06 18:51 | 人+本=体


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