人気ブログランキング | 話題のタグを見る

思索の森と空の群青

onmymind.exblog.jp
ブログトップ
2014年 05月 03日

なんか絵を描くために作られたものに向かうと、怖いっていうか——加藤実秋『ホワイトクロウ』

なんか絵を描くために作られたものに向かうと、怖いっていうか——加藤実秋『ホワイトクロウ』_c0131823_19313321.jpg加藤実秋『ホワイトクロウ』東京創元社(創元推理文庫)、2010年。143(798)


版元 → 
単行本は2008年に同社

「インディゴの夜」シリーズ(?)第3弾です。下掲引用部分、後半のM論議の手前までのところに共感を覚えました。長距離走現役時代、練習ではよい記録を出すのに本番ではそのよい記録が出せない、ということがよくありました。大会で出した記録よりも、何の調整もせずに臨んだ体育の時間の記録のほうがよい、とか。そのことを思い出しました。それから、水泳を習っていた小学生の頃は月に1回昇級テストがあり(たしか)、コーチがストップウォッチを取り出して“さあ、計測するぞ”という段階になると「萎縮」した記憶もあります。改まった雰囲気、計測する人-される人、のような位置付けに弱かったように思います。それを打ち破るだけの実力がなかったから(実力がないと自分では思っているから)、という気もしています。それはいまもあります。普段とは異なるときに普段どおりの力を出す、ということは意外と難しいのだということを、そういう体験から学びました。何をどうすればそこを突破できるのか——実力を付ける、以外にもありそうな気がしています。

 というわけで、物語の本筋、文脈には関係のない、わたしの個人的な体験を呼び起こした部分の引用です。


「キャンパスとか、画用紙とかに絵を描く気はないの」
 煙草の箱を向けて訊ねた。頭を下げ、タクミは箱から煙草を一本取ってくわえた。
「うん。なんか絵を描くために作られたものに向かうと、怖いっていうか気後れしちゃうんだよな
「怖い?」
『さあ描け』って身構えられてる気がしてさ。萎縮しちゃうっていうのか、どうしていいのかわかんなくなる。〔略〕」
 目を細め、いかにも旨そうに煙草を吸う。
「なんだそれ。段ボールとかペットボトルには、そういうのを感じないの?」
「そうそう。『絵? 関係ないし。勝手にすれば』みたいな、突き放されてる感じがいいんだよ。ほら、俺って基本的にMじゃん」
「『じゃん』って。知らねえよ、そんなの」
(119)


@研究室

by no828 | 2014-05-03 19:50 | 人+本=体


<< 相手を選べば迷いが生まれて隙も...      引用のない本——加藤実秋『イン... >>