2014年 06月 15日
町田康『耳そぎ饅頭』講談社(講談社文庫)、2005年。157(812) 版元 → ● 単行本は2000年に同社 三たび、エッセイ集。町田康はロック、パンクロック、などの音楽もしているわけで、それはエッセイのなかでも触れられています。わたしはロック、パンクといった方面にはまったく詳しくないので、「ロック」とは何か、「パンクロック」になるとどう変わるのか、などもわかりません。しかし、少なくとも町田康に鑑みるに、そこに通底するのは「肯定」(人生の肯定)という姿勢なのかと思いました。その人生がどういうものであれ、人生のなかのどういう段階にいるのであれ、それを肯定する——さらに言えば、すべてはよい状態なのだ、と積極的に肯定する——という姿勢を感じ取りました。 とりあえず、町田康はここで一旦終えます。 人生を前向きに生きず、俯いてばかりいるせいか自分は、子供の時分からよく物や金を拾う。同行の人がちっとも気がつかず、行き過ぎようとするのが不思議なくらい、路傍には、サングラス、時計、定期入れ、装飾品、裸現金などが散乱しているのである。物の場合は、たいていこれ、安物である場合が多く、金の場合もたいては小銭であるが、高級な時計を拾ったこともあるし、現金、八千円を拾ったこともある。つまり、だから、人生というのは、なにも無理に前向きに生きずとも、多少は俯いてもいいんじゃねぇの、ということが、自分の経験から察知されるのであり、俯き気味の人達も多少自信を持って生きていて欲しい、と自分は切に願うのであります。御清聴ありがとうございました。(35) 結果、人々は、ソップの味が辛いの甘いの、そんな話ばかりするようになって、テレビジョンなどでも、莫連女グルメ道中といった番組ばかりを放送し、人民大衆はこれに影響を受け、ますます飯の話をするようになる、といった体たらくで、日本国中が餓鬼道地獄に堕ちた感があるというのは、まことにもってあさましいことで、昨日、なになにを食ったら実にうまくて云々、なんてな話を声高にするいうのは、つまりこれは欲望のことを話しておるわけで、昨日は腰が抜けるほどナニいたしまして実に気色がよお御座いまして御座いました。はは、わたくしはど助平でございますよ。と云っておるのと、その恥ずかしさにおいて大して変わらぬ〔略〕。(123) 〔略〕夢も希望もない、いわば絶望した状態で人間は生きていけるかどうかということを考えるに、まあ、小生の体験から言うと、そこいらの物をがんがん蹴る、ときおり、がー、あああ、うっうーん。うーむ。などと無意味な音声を発する、ためにスチールのロッカーがへこんだり、周囲の人に気色悪がられたりするという弊害はあるにはあるが、しかし結構生きていける。 @研究室
by no828
| 2014-06-15 14:21
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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