小峰元『アルキメデスは手を汚さない』講談社(講談社文庫)、2006年。73(896)
「小峰元」は「こみね・はじめ」
版元
単行本は1973年に同社
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「’70年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー」と裏表紙にあって古書で購入。と書いていて、だんだんと内容を思い出してきました。
「俺はそれを考えているうちに、ふと思いついたんだ。ある事件が、なぜ起こったかと考えるから難かしくなる。なぜ起こらなければならなかったか、と考えると案外と解けるんじゃないかな、と。隆保がなぜ中毒したかと考えずに、反対に、なぜ中毒しなければならなかったか、というふうに」(270)
「殺されたほうも悪いんだし、彼は直接の犯人じゃないんですもの。彼の手は汚れてはいないんだわ」
「そういう言い方には抵抗を覚えるね」
と田中は冷たく切り返した。
「そんなアルキの会の会則みたいな、子供っぽい考えは、いいかげんに卒業しろよ。いいかい、アルキメデスが発明した殺人機械は、大勢のローマ兵を殺した。彼は殺人機械を発明しただけで、実際に操作したのはシラクサの兵士たちだ。だからアルキメデスの手は汚れていないと言えるだろうか。彼が名利を超越した学者だという伝説を、僕は信じないね。君の言うように“美と高貴の具わっている事柄にのみ自分の抱負を置く”人だったら、いくらヒエロン王に命じられたって殺人機械の設計はしなかっただろうからね。数学に夢中になっていてローマ兵に刺されたという話も、いかにも作りものめいて頂けないね。要するに、彼を神秘化するための、子供騙しのお伽噺なのさ」
「そんな言い方こそ……抵抗を感じるわ」
「そうかな。じゃ、こんな話はどうだろう」(372-3)
そして原爆投下の話が少し展開されます。科学者の責任の議論。関心があります。
@研究室