2015年 11月 22日
手嶋龍一・佐藤優『知の武装——救国のインテリジェンス』新潮社(新潮新書)、2013年。29(951) 版元 「インテリジェンス」がキーワード。「国家の舵取りを委ねられた指導者がその命運を賭けて下す決断の拠り所となる情報」(4)や「膨大な一般情報を意味するインフォメーションから、きらりと光る宝石のような情報を選り抜いて、精緻な分析を加えた情報のエッセンス」(14)と規定されています。 なるほど、と思わされる箇所ももちろんありましたが、「インテリジェンス」とはつまりは“相手の腹の読み方”であって、それを「インテリジェンス」という言葉を使って論じるのは少し大袈裟というか、わざわざ使わなくてよいのではないか、という読後感(読中感)もあります。 佐藤 二〇一三年九月五日付の「ニューヨーク・タイムズ」の一面に、シリア反政府派の武装グループが、シリア政府軍の兵士を上半身裸にしてひざまずかせ、射殺する残虐な写真が掲載されましたが、事実、このような残虐な行為に及ぶ連中です。アメリカやフランスは遠くから手を回し、この「半グレ集団」に軍服を着せて銃と金を渡し、反政府派と名のらせて内戦をやらせてきたんです。(39) 手嶋 民間のかなり大事な交渉で、自社の社員に英語で折衝をやらせている経営者がいますが、危険極まりないですよね。外交の世界では決してそんなことはしません。外交官は英語で交渉しているはずとかなりの人が思っていますが、実はそんなことはしないんです。非公式な社交の場では英語で会話をしますが、正式な折衝では通訳を使うのが鉄則です。 佐藤 スノーデンがこの巨大会社の下級社員であった理由は、能力が低いからじゃない。インテリジェンスの非合法活動に関わっていたからですよ。だから万一、事故が生じたときに備えて、外部の民間会社の下級社員の肩書で重要な任務に当たらせていたのです。(96) 佐藤 スノーデン自身はこう語っています。「米政府が世界中の人々のプライバシーやインターネット上の自由、基本的な権利を極秘の調査で侵害することを我が良心が許さなかった」。これこそ、彼を突き動かした真の動機であると見ていいでしょう。(99) 佐藤 「スノーデンは思想犯だ。国家や民族が存在しなくても、人類は生きていくことができるという素朴なアナーキズムを信じているハッカーは多い。何かの機会にスノーデンも正義感に目覚めてしまったのだろう。この種の思想犯は手に負えない」。この見立ては正鵠を射ていると思いますよ。(100) 手嶋 彼らは意図して新しい知識や科学の知見を受けつけようとしない。そもそも公的な教育に神の子である子弟を委ねない人々なのです。福音派の教会から送られてくる教科書を使って自宅で親が学ばせている。そこにはダーウィンの進化論など存在しません。(139) 佐藤 安倍政権は、憲法改正に直ちに着手することができないので、集団的自衛権に積極的な小松〔一郎〕氏を内閣法制局長官に据え、解釈改憲を進めようとしているのでしょう。 佐藤 「帝国」は、外の力を包摂し、自己に吸収して、初めて生き残ることができる。かつてのような植民地を持つ形の帝国主義じゃなくて、品格のある形で自由貿易を基本としながら「帝国」として生き残る道もあるんです。沖縄という本土とは異質な文化を持つ外部領域といかにしてうまくやっていくのか。(148) 手嶋 「TPPが聖域なき関税撤廃を前提にするなら、TPP交渉への参加に反対する」——。佐藤さん、この自民党の公約をどうご覧になりましたか。 手嶋 佐藤さんは、実念論が中心の国では、成文憲法ができづらいと興味深い指摘をしていますよね。 佐藤 キュニコス学派の現実を突き離して見る姿勢は、ピュロンの懐疑派でより強まり、そのどちらが正しいかよくわからないという。人にはそれぞれ正しいことがある。あまり、何が真理かなどと議論してもよろしくない。多元的にいこうじゃないかと。究極の理想はエポケー、判断停止にすること。このエポケーが最大の理想である。判断をしないとあえて判断する、こういう立場に立つんです。〔略〕シニカルというと「冷笑的」と日本では訳されて、何か冷たい笑いを浮かべているというイメージが定着してしまった。しかしそうじゃなくて、自分を突き離すことのできる、ものすごく強い意志力が求められる。その前提として、目に見えないものが確実に存在するという感覚が必要になる。けれど、我々は人間だから目に見えないものについて知ることはできない。だから、それについて我々は語らない(182) 佐藤 イギリスの〔第二次大戦開始後のマン島への〕強制移住の話、ほとんど知られていませんね。「第五列」という意味では、アメリカでも、日系アメリカ市民の強制収容キャンプ送りがありましたが、イギリスは、ファシズムにつながる危険性があるとして、ごく一般のイギリス市民を強制移住させた事実があるんです。(186) 佐藤 CIAの係官と話していてびっくりしたんですが、中国分析をする人間は中国に渡航することが禁止されている。また、中国語を学ぶことも奨励されていないんです。そういうことがあるとバイアスがかかるからという理由でね。(189) 佐藤 カトリックの聖職者は独身ですが、裏を返せば、バチカンに集まっている人間というのは、自分の家族のことをほぼ考えないで政治だけやっているわけですから、そういう人たちが強いのは道理ですよ。(209) 佐藤 一九七〇年代の前半までのことですが、東西冷戦の時代にあっても、ベルリンの壁を自由に行き来できた一群の人たちがいました。この事実は案外と知られていない。彼らは宗教界の人々だったのです。プロテスタント教会の一つ、EKD(ドイツ福音主義教会)は、六〇年代末まで東西両ドイツにまたがる組織で、この神学校の神学生は両ドイツをほぼ自由に移動できた。両陣営の暗黙の合意のもと、わざとそうした体制にしていたんですね。(213) @研究室
by no828
| 2015-11-22 15:35
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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