2016年 03月 23日
伊坂幸太郎『マリアビートル』角川書店、2010年。49(971) 版元 2015年に残してきた本 軽妙なミステリ。T北新幹線内の殺しの話。相変わらず引かれた伏線は見事に回収されていきます。いじめにも関わって、人間の心理についての説明がなされています。 この物語ではずいぶん簡単に人が死ぬんだな、殺すし、殺されるんだな、と思いながら本書を読み、新幹線のなかでこんなに人が死ぬという発想の突飛さに感嘆もしましたが、しかしこの世界ではすでに簡単に人が死んでいるのだと思いなおしました。 木村の息子をデパートの屋上に連れ出したのは、王子たちだった。正確に言えば、王子と王子の指示に従う同級生たちだ。あの六歳児は怖がっていた。怖がっていたが、人間の悪意には慣れていなかった。(38) どうして虐殺のような出来事が起こるのか、王子には簡単に理解できた。人間は、物事を直感で判断するからだ。しかも、その直感は、周囲の人間たちから大きな影響を受ける。〔略〕 「大事なのは、『信じさせる側』に自分が回ることなんだ〔略〕それに、国を動かしているのは政治家じゃないの。政治家以外の力、官僚や企業の代表とかね、そういう人たちの思惑が社会を動かしてるんだ。ただ、そういう人たちはテレビに出てこない。普通の人たちは、テレビや新聞に出てくる政治家の顔や態度しか目にしない。後ろにいる人たちにとっては都合がいいんだ」(215) 檸檬に比べれば、この蜜柑のほうが頭が良く、内面も充実しているように思えた。内面の充実は、想像力を強くする。想像力が鍛えられれば、人へ共感する力が強くなる。つまり、それだけ脆くなる。檸檬よりもこの蜜柑のほうがコントロールしやすい。(381) 「もう一つ、俺の好きな文章を教えてやるよ。『午後の曳航』の中だ」 「だからね、僕は不思議で仕方がないんだ。どうして、君たちは決まって、『人を殺したら、どうしていけないのか』というそのことだけを質問してくるのか。それならば、『どうして人を殴ったらいけないのか』『どうして他人の言えに勝手に寝泊まりしてはいけないのか』『どうして学校で焚き火をしたらいけないのか』とも質問すべきではないかな。どうして侮辱してはいけないの? とかね。殺人よりも、もっと理由の分からないルールがたくさんある。だからね、僕はいつもそういう問いかけを聞くと、ただ単に、『人を殺す』という過激なテーマを持ち出して、大人を困らせようとしているだけじゃないか、とまず疑ってしまうんだ」(422) 「殺人を許したら、国家が困るんだよ〔略〕たとえば、自分は明日、誰かに殺されるかもしれない、となったら、人間は経済活動に従事できない。そもそも、所有権を保護しなくては経済は成り立たないんだ。そうだろう? 自分で買ったものが自分の物と保証されないんだったら、誰もお金を使わない。そもそも、お金だって、自分の物とは言えなくなってしまう。そして、『命』は自分の所有しているもっとも重要な物だ。そう考えれば、まずは、命を保護しなくては、少なくとも命を保護するふりをしなくては、経済活動が止まってしまうんだ。だからね、国家が禁止事項を作ったんだよ。殺人禁止のルールは、その一つだ。重要なものの一つ。そう考えれば、戦争と死刑が許される理由も簡単だ。それは国家の都合で、行われるものだからだよ。国家が、問題なし、と認めたものだけが許される。そこに倫理は関係ない」(423-4) 「殺人が許されない理由は、倫理的な理由を除けば、法律で決まっているからとしか言いようがないんだ。だから君たちが、『法律』以外の答えを求めるのは、『なぜ、野菜を食べなくちゃいけないの? 栄養になるから、という理由以外で答えて』と言うのと同じくらい、ずるい質問じゃないかな」(425) @研究室
by no828
| 2016-03-23 22:28
| 人+本=体
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自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
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