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思索の森と空の群青

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2017年 10月 15日

独りになり、自分を取り戻すことが、旅の真意なのだ——松浦弥太郎『場所はいつも旅先だった』

 松浦弥太郎『場所はいつも旅先だった』集英社(集英社文庫)、2011年。3(1070)

 単行本は2009年にブルース・インターアクションズ

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 主としてアメリカの記憶。すぐ下に引用した話がよかった。カバーのデザイン(写真)もとてもよい。

 遠くへ行くことだけが旅ではないし、遠くへ行っただけでは旅ではない。

37-8)ジュリアンには恋人がいた。トムという青年だった。ジュリアンはゲイだった。僕はそのことについて気にしなかったし、ジュリアンも知られることについて気にしていなかった。しかし、トムの僕にたいする嫉妬がひどかった。ジュリアンとトムは僕のことで頻繁に口論した。今まで週末はこの部屋で2人で過ごしていたのに、僕がジュリアンの部屋に転がりこんだおかげで、そのひとときが失われてしまったのだ。
「じゃあ、ヤタローを追い出せというのか。彼はニューヨークをまだ知らないんだ。それに彼は僕のボスの知人なんだ」
「ヤタローは旅行者だろう。それならホテルに泊まるべきだ。彼だって最初そのつもりだっただろうに」
 ジュリアンとトムは、僕の目の前でこんな風にやりあった。僕はジュリアンのいつまでも居させてくれようとする優しさが嬉しかったが、その気持ちを伝える英語力がなかった。
 クリスマスの日。僕はこの日だけはジュリアンとトムを二人きりにしてあげたかった。僕はクリスマスの朝、ジュリアンの部屋を出ることにした。そして51丁目の安ホテルへと向かった。ジュリアンには1通の手紙を残して、彼が用事で出かけている合間に部屋を出た。
 クリスマスの夜、僕は暖房が効かない小さな部屋で毛布にくるまって、映りの悪い白黒テレビから流れるクリスマスソングを聴いて過ごしていた。寂しかった。そうして眠気でうとうとしていると、部屋をノックする音がした。恐る恐るドアを開けてみたら、そこにはジュリアンとトムの2人が立っていた。
ヤタロー、どうして出て行くんだ。僕らは君とクリスマスを過ごしたくて準備していたんだよ。さあ、一緒に帰ろう
 トムが僕にこう言った。ジュリアンはにっこりと笑って僕の手を引いた。僕の目からは涙がとめどなく流れた。そして、わんわんと声を上げて泣いてしまった。
 クリスマスの夜、3人で眺めた、エンパイアステートビルからの夜景は素晴らしく美しかった。

133-4)「まあ、古書店の商売もいろいろあるということだ。本がいらないと言われれば買取るだけだし、本が必要と言われれば『はい』と言って売るだけだ。だけど、わたしが一番大切にしたいお客は、雨の日も風の日もこの店の外のセール棚に毎日やってきては、1ドルや2ドルの本を、せっせと買ってくれる客なんだ。彼らが一番、本を愛しているとわたしは思うんだよ

210)何かをたくさん持っていることは、なるほど素敵だ。しかし、その持っているものを理解していなければ、持っているとはいえないだろう。そうやって、自分自身を見つめ直し、不要な荷物を捨てることができたJMT〔=ジョン・ミューア・トレイル〕の旅だった。

230-1)僕はよくホテルを利用するが、自分の仕事場から数分の所にあるホテルを贔屓にしている。ここで旅とはなにかを答えておきたい。旅とは、自分自身を見つめる精神的行為であり、自分自身へと立ち返る行動である。要するに、独りになり、自分を取り戻すことが、旅の真意なのだ。ちなみに観光と旅は別ものである。日々の暮らしや仕事にどっぷりつかっていると、知らず知らずのうちに、自分が自分でなくなっていくのがわかる。それはある意味、社会に揉まれていれば、防ぎようのないことである。しかし、そのままでは疲れも伴い、心身ともに病んでしまう。であるからして、リセットが必要である。一番良いのは、やはり旅をすることである。

@研究室


by no828 | 2017-10-15 13:54 | 人+本=体


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