1 2017年 09月 15日
小田実『何でも見てやろう』講談社(講談社文庫)、1979年。1(1068) 単行本は1961年に河出書房新社 今年読んだ本の記録(まだ)1冊目。通算1068冊目。 有名な本でいつかは読もうとずっと思っていた。立ち寄った古書店でたまたま目に入ったので購入。学類生のときに読んでいたら、“外へ出よう”という気持ちがもっと強まっていたかもしれない。いまは、本書におけるものの見方の素朴さというものを感じてしまう。その素朴さには勢いがある。 20)パリで、アメリカの女の子がしみじみと語ったことがある。私は小さいときから食卓にヒジをつけて食べないようにと、そればかりしつけられてきた。それが今こうやってヒジをつけて食べていると(私と彼女はレストランで話しているのだった)、私たちがどんなにアホらしいことに精いっぱいになっていたか、どんなに田舎者であったかが判る。彼女はそんなふうに言うのであった。 55) アメリカで私が感じたのは、これからあとでくり返し述べることだが、決して西洋文化の圧力ではなかった。私が感じたのは、すくなくとも重圧として身に受けとめたのは、それは、文明、われわれの二十世紀文明というものの重みだった。二十世紀文明が行きついた、あるいはもっと率直に言って、袋小路にまで行きついて出口を探している一つの極限のかたち、私は、アメリカでそれを何よりも感じた。 113-4)その夕の聴衆は、私がこれから原爆の詩を読むと宣言したとき、そのときまで小声でささやき合ったりしていたのが、ピタリと静まり、それとともに異様な緊張感が一座にみなぎって行った。私は原民喜氏の碑銘になっている有名な四行詩を始めとして、峠三吉氏などの作品を、はじめ日本語で読み、ついで私の英訳(らしきもの)をつけた。みんなは、ただ黙って聴いているのみであった。 131) いや、もう一つあった。私はこれこそは本心からいばることができたのだが、東と西、また中立陣営をとわず、世界の文明国じゅうで、徴兵制というような野蛮な制度がない唯一の国で、わが日本国はあるのではないか。私はこのことをもっと誇ってよいと思う。 ▶︎ 米軍基地は? 236)もちろん、日本もヨーロッパ諸国も「文明国」ではある。が、やはりアメリカに比べると、「文明国」であるよりはまだまだ「文化国」だという気がしてならないのである。 389)あるホテルの前で腰を下ろしたとたん、ホテルの掃除夫からじゃけんに追い立てをくったのである。掃除夫といえば、おそらく例の不可触賎民か、よくてせいぜいカーストの最下層にとどまるであろう。私は追い立てをくったことに怒り、そうした連中に追い立てをくったことでより一層怒っている自分(私は人種的差別や階級的差別、ましてこのばかげたカースト制度などに強く反対してきたはずであった)に、また腹をたてた。 399)そんなふうに単純に、自分がインドの政治(「未来」といってもよい)について何ごとかをなしとげ得ると確信することができる彼が羨ましかったのだ 415) 日本を訪れる外国人が誰しも驚くのは、日本人の忙しさであり、勤勉さであり、それを総括する異常なエネルギーであろう。〔略〕 421)おそらく、それらのむくわれざる死者をして安らかに眠らしめるただ一つの道は、判りきったことだが、ふたたび、このような死者を出さないこと、それ以外にはないのだ。すくなくとも、もし私の涙が結びつくものがあるとすれば、それはそこにおいてしかない。 427) Tはあいかわらずの政治ぎらいだった。政治的なもの一切を嘲笑する。私がベトナム反戦運動をしているのを知ると、いつにない真面目な表情で言った。「きみはいい、きみはまだ政治を信じることができる」私は答えた。「信じることができないから、自分で運動をすることにしたんだ」 428) 「おれはアメリカがよくなるとは思わないな」 113-4ページの引用部分が本書においてもっとも印象深かった。反応は、本当の反応というのは、あるいはいわゆるコミュニケーションというものは、そのように静かなもので、そのように時差を伴うものなのかもしれない。 @研究室
▲
by no828
| 2017-09-15 19:38
| 人+本=体
2017年 09月 14日
先の週末は3泊4日で某学会大会のあるM庫川女子大学へ行ってきた。昨年と同じ場所だ。(来年も同じらしいという噂もある。) 行程は往復ともにS尻・N古屋経由。K西方面へ行くのに、なぜいったんN野を経由しなければならない——方角としては北上することになる——のか、という若干の憤懣はあるものの、所要時間はH王子・S横浜経由とそれほど変わらない。運賃もH王子・S横浜のほうが高い。というわけで、以下の写真はそのS尻駅のホーム。 宿はO阪U田。そこからH神でN尾へ2日間通う。急行から各駅への乗り換えはあるものの、所要時間は20分程度。去年と同じ方法。大会でご一緒したI澤さんには「U田好きだね」と言われた。そういうわけでもない。O阪駅・U田駅周辺の地下空間は混み入っていてすぐには慣れない。 懇親会を除いて大会日程のすべてに参加。この学会はわたしのなかで知り合いも少なく、まだ場違いな感覚が強い。1度だけ懇親会にも参加したことがあるが、少々辛いものがあった。 今回は、初日のお昼にわたしの直接の知り合いの方とその方の知り合いの方と5人で食事をした。直接の知り合いの方とは午前中の部会でたまたま近くの席になった。少し話して、お昼ご一緒しませんか、とお誘いいただき、ぜひ、と応じた。ただ、わたしの想定では、昼食はその方とわたしの2人であった。そこから派生して5人で少し歩いたところにある——実は遠回りしていた——Gストへ行った。5人は(たぶん)同世代ということもあり、研究の話もしやすかった。帰りは最短距離——だと思う——で会場まで戻った。 実はこの日、わたしは昼食を準備していた。大会校であるM庫川女子大学の周辺には食事ができるところがほとんどないため、コンビニなどで昼食をご準備のうえご参加ください、と事前に案内があったからだ(だから去年もコンビニ対応した)。が、それは伏せてGストへ行った。準備したコンビニおにぎりは夕飯としてホテルで食べた。夕飯のためにH神地下で惣菜も買った。 2日目のお昼は、大学院の先輩でもあるH井さんとご一緒した。初日の午後にお目にかかって(H井さんは午後からいらしていた)、明日お昼一緒に食べよう、とお誘いいただいた。Gストがそう遠くないところにあることが初日にわかっていたので、どこで食べるか心配することはないと思った。今度は最短距離でGストへ向かった。が、途中で「自家製麺」ののぼりがあることにH井さんが気づかれた。そこはラーメン屋で、ふたりで豚骨系のラーメンを食べた。ふたりとも1回替え玉をお願いした(2玉まで無料らしかった)。わたしにとっては人生初の替え玉となった。ラーメンで大盛りを頼んだことはあるが、替え玉を頼んだことはこれまでなかった。替え玉方式のラーメン自体を食べたことがないのかもしれない。 2日目の夜は、大学院の後輩であるS口とU田で合流した。彼はいまH庫教育大学に勤めている。そこから高速バスで来てくれた。昨年も一緒に飲み食いした、駅にもバス・ターミナルにも近いビルの地下街へ向かった。 ほぼ1年ぶりのS口の近況などを聞く。今回は“本当に聞きたいこと”というか、“真偽を確認したいこと”があり、かなり間接的に水を向けたりもしたのだがなかなか思うようには展開しなかった。あるいは偽なのかもしれない。自発的な告白に委ねようとはじめから思っていたからそれでもよい。本当はS口に乾杯したかった。が、果たせなかった。でも「O阪に乾杯」は飲んだ。かなり爽やかな味がした。(付記:帰路、S大阪駅で「O阪に乾杯」350ml缶を2本買った。お土産売り場というよりはコンビニのようなところに売っているはずだ、という目星を付けていた。そのとおり、そうしたところにあった。) S口は22時の高速バスで帰っていった。21時50分までお店にいて、バス・ターミナルまでふたりで走った。わたしは走る必要はなかったし、そのように言われもしたのだが、ひとり走らせるわけにはいかないと、酔ったところでむくむくと湧いてきがちな義侠心のままにわたしも走った。バスには間に合った。S口は1番前の席、しかも窓側にすでに人が座っているところの隣に座った。バスの後部の座席はまだまだ空いていたからそのように手ぶり口ぶり(?)で伝えようとしたが、S口は動かなかった。そのときは不思議であったが、座席は指定されていたのかもしれない、とあとから思った。 大会自体はかなり情報量の多いもので、まだ消化しきれていないところがある。問題意識の段階で追いついていないものもある。その続きこそが聞きたいのだ、ということもある。が、刺激を受けたことは事実だ。もっと勉強しなければならない——この大会へ行くといつもそう強く思う。 @研究室
▲
by no828
| 2017-09-14 19:59
| 日日
1 |
アバウト
![]() 自省のために。他者の言葉に出会うから自分の言葉を生み出せる。他者の言葉に浸かりすぎて自分の言葉が絞り出せなくなることもある。自分の言葉と向き合うからその言葉は磨かれる。よろしくお願いします。 by no828 カレンダー
カテゴリ
以前の記事
2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 お気に入りブログ
新しい世界へ
タグ
森博嗣
佐藤優
三島由紀夫
村上龍
舞城王太郎
筒井康隆
法月綸太郎
村上春樹
三浦綾子
川上未映子
奥田英朗
宮部みゆき
伊坂幸太郎
奥泉光
京極夏彦
カート・ヴォネガット・ジュニア
北村薫
橋本治
恩田陸
大江健三郎
検索
最新のトラックバック
ブログパーツ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||